家と幽霊
Kさんは小学生の頃、町外れの廃屋に行った記憶があるという。ただし真実は未だ分からないし、自分が一体何を見ていたのか説明がつかないそうだ。
「アレは本当にあったことだと思うんですが、何も証拠のない話なので話半分に聞いてください」
そう前置きをしてから彼の話を始めることになった。
昔住んでいたところなんですが、町外れに廃屋があったんですよ。そこには出るって噂がまことしやかに流れていたんですが、誰も検証しようとはしなかったんです。そこで小学生なりの功名心から、そこに行って幽霊などいないと証明してやろうと意気揚々と仲間を募ったんです。数人が集まりましたよ、皆学校の授業に退屈していたので刺激が欲しかったんでしょう。人数がいれば気が大きくなるもので、行くなと言われていた廃屋に皆で集合したんです。
その廃屋は切妻屋根のごく普通の民家でした。ボロボロであることを除けばの話ですけどね。とても人が住んでいるようには見えません、いや、まともに生活出来る環境になっているとは思えないほど朽ち果てているという表現があっている家でした。
少し尻込みしながらもドアノブに手をかけると、鍵はかかっておらず、ギギギときしむ音を立てながらドアは開きました。少しビビっているヤツもいましたけど、小学生で集団です。当然そんな所で引き下がるとそういうヤツだと話にされるのは分かっていたので不穏であってもみんなで入ったんです。
結果ですか? そうですね、その場で幽霊は出ませんでした。だからいいとは思えないんですがね。とにかく荒れ果てた屋内で家捜しをしていたんですが、何も怖いものは無く、ただ単に古いだけの部屋が広がっているんです。次第に全員ここに怖いものなんて無いと思い始め、思い思いにイタズラを始めました。落書きをしたり傷をつけたり、思い思いに廃棄された家を荒らして勝手に飽きた連中が『つまんねーから帰ろうぜ』と言いだして解散になりました。
だからその日は幽霊らしきものは一切居なかったんですよ。
問題は翌日でして、気になってその家の付近に近寄ると、廃屋なんて無いんです。そこにはごく普通の民家が建っていて、洗濯物が干してあったりカーテンが付いていたり、明らかに人が生活している場所になっていました。崩れかけていた屋根なんてものも無く、きちんとメンテナンスされている様子でした。混乱しながら昨日一緒に廃屋を荒らした連中のところへ昨日見たものを聞きに行きました。
いつもの遊び場に連中はいたんですが、全員が……いや、自分以外が昨日はここで遊んでいた、廃屋なんて行ってないし、そもそもそこに廃屋なんて無いって言うんですよ。皆がそこには昔から民家があったと言うんです。
だからまあ……幽霊は出ていないんです。見たのは廃屋の幻なのか、あるいは友人のように見えていた何かだったのか、真実は分かりませんがあそこに何かがあったのは確かだと思っています。ただ、なんの証拠もないですし、小学生の記憶なんて充てにならないって言われるのが目に見えているので言いたくないんですが、怪談が欲しいならちょうどいいかなと思いまして。
それで彼の話は終わった。一体何が幽霊だったのかは分からないが、Kさんを含めた誰かが超自然的な何かを体験したであろう事は確かなのだろう。果たして真実を掘り起こす必要があるのかは分からない。彼も別に真実を知ってもメリットが無いのであの体験を詳しく調べるつもりは無いらしい。今回話してくれたのも、私が怪談を集めていて、謝礼を出すと申し出たからという理由だそうだ。
念のため彼の出身地は伏せておく。