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日本怪奇譚集  作者: にとろ


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不明なアクセス元

 Dさんが自宅サーバを運用していた頃の話だ。まだそこまでプロバイダの規制が厳しくなかった頃、つまりネットが割とおおらかな頃の話だ。


「俺もネット上の書き込みを真に受けたりなんてしない方なんですよ。ただあればかりはどうにも不気味でして……」


「何があったんですか?」


 多分デタラメだろうと前置きをしてから彼は話し始めた。


 あれはまだ大学生だった頃だよ。あの頃は今ほどPCのスペックも高くなくて当たり前でさ、某通販サイトで格安のサーバが売られてたんだ。案外売れてたんだけどな、まあ俺も大学で情報化をやってた手前興味本位で買ったんだよ。


 それでOSを入れてとりあえず何かしようと思ってWEBサイトを公開したんだ。ああ、あの頃は今ほど派手じゃなくてさ、今じゃ非推奨のHTMLタグだって平気で使われてた時代だったよ。薄々変わっていくだろうなと思いつつ、皆今を楽しんでたよ。俺も掲示板を付けて古式ゆかしいサイト運営をしてたんだ。


 カウンター……って知ってるかな? ただ単にアクセス数を表示するだけなんだが、当時はよくあるサービスでな、結構な人数がそれを使っていたんだ。ご多分に漏れず俺も使ってたよ。


 でさ、カウンターなんだが昔は同一の人のアクセスでも更新の度にカウントしてたんだ。それから少しずつ変わっていって、その頃は同じマシンからなら一日一回のアクセスだったな。だから何人がアクセスしてきたかはそこそこいい加減だが増えたか減ったかくらいは分かったんだよ。


 ある日のことなんだが、いつも通りサーバにアクセスすると異様にカウンターが増えてたんだ。おかしいなと思ってロクに知りもしないコマンドを入力しながらログファイルを解析することにしたんだ。今じゃ可視化ツールなんて山ほどあるから一々そんなことをするのも少数派なのかも知れないがな。


 で、アクセス元を調べてみたんだよ。こういう時は大抵、どこぞの掲示板にリンクが貼られた時って相場が決まってたからな。でも思い当たるURLを入力してもそこから飛んできているヤツはいなかったんだ。仕方ないのでログファイルからリファラっていうどこから飛んできたかの情報を抽出したんだ。そうしたら海外から大量に飛んできているアドレスがあったんだ。


 そのアドレスにアクセスしてみたんだがな……真っ黒なページに真っ赤なフォントで『TARGET』とだけ書かれていて、その下に俺の写真が載っていたんだ。ああ、もちろん解像度なんて酷いもんでまともに見れたもんじゃなかったよ。ただ明らかに俺の隠し撮りだったんだよ。


 不気味で仕方なくてな、ネット上に名前が挙がる事なんてよくあることなんだが、そこには俺の写真が載っているんだぜ? 要するに俺を撮れる程度までは近づいたって事だろ、不気味で仕方なくなってルータに繋がっているケーブルを抜いたんだ。


 ま、それ以来何も起きちゃいないんだがな。あれはあまり気分の良いものじゃなかったよ。おかげでそれ以来サーバは立ててないんだ。クラウドだなんだといろいろ変わっていっているけどな、結局最後に見るのは人間なんだよ。安全なんてタダじゃないんだってよーく分かったよ。あれからログファイルを見るのが苦痛になってさ、サーバの運用は就活から真っ先に外したよ。


 そうして彼は普通のデスクワークをしているという。あのサイトのURLは今でもしっかり覚えているが、話すつもりもアクセスするつもりも全く無いらしい。

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