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日本怪奇譚集  作者: にとろ


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親父のタバコ

「怪談とも少し違う気がするんですがねえ……」


 話をしてくれると言うことでNさんと会ったのだが、彼は謝礼は良いので書き残しておいて欲しいと言う。


「いえいえ、不思議なお話でも何でも構いませんよ」


 そう水を向けると彼は記憶を辿りながら話し始めた。


 私は小学生の頃に父親を亡くしているんですよ。ああ、お気遣いなく、もうすっかり過去のことですからな。ただ、その事が今回の話に関係しているのも確かなんですが……


 まあ親父はあまり感心出来たものではなかったですよ、博打から酒タバコまで一通り金のかかる趣味はやっててねえ、なかなか苦労したんですなあ……


 しかしそんな親父でも肉親ですから、死んでしまった時はそれなりに悲しみましたし、家の中も荒れましたなあ。案外あれで家の中のたがみたいなものだったのかもしれません。亡くなってしまいそれが外れてからしばらくは家族関係が滅茶苦茶になりましたな。それでもなんとか高校まで進学して、大学も相当危なかったのですが滑り込んだんですよ。


 それで放蕩生活なんてものは送れず必死に勉強をしていましたよ。大学生で遊び始めるなんて言いますけどね、私みたいな貧乏人には留年なんて許されませんし、必死こいて生活していましたよ。あれは大学の二回生、二十歳になった年の成人式の時でした。


 つまらない儀式じみたものを終えて、さあ帰るかと思ったところでコンビニが見えたんです。二十歳にもなったんだしと思い、コンビニに入って酒とタバコを買ったんです。身体には悪いんでしょう。しかしそんな退廃的な感じが当時は魅力的に思えたんですよ。


 適当な酒と、よく分からない銘柄のタバコを買って店先の灰皿で吸おうとしたんです。当時はまだコンビニの前に灰皿がありましたよ。


 そこで火をつけようとした時にどこからか匂いがしたんです。その匂いに引き寄せられるままに歩みを進めると、寺の敷地に入って、自分の家の墓の前に出ました。その墓には父親が眠っています。その名前が刻まれているのを見てようやく思いだしたんです、あの匂いはあれだけ嫌っていた父親がいつも吸っていたタバコの匂いでした。


 そこでフワッと風が吹いてその匂いを散らしたんです。多分誰もが気のせいだと思うでしょうけど、確かに聞きましたよ。


『お前にゃまだ早い』


 間違いなく親父の声でした。未だに思い出せますよ。その墓にさっき買ったビールとタバコを供えて墓を後にしました。なんとなく不思議なことにそれ以来タバコや酒をやりたいとは思いませんでした。そうして大学を無事卒業してなんとか生活出来ているんですよ。


 お袋は亡くなりましたが、親父と墓の中では仲良くやっていることを願うばかりですよ。


 そう言って彼は話を終えた。彼は『タバコや酒が悪いって言いたいんじゃないですよ。ただ、それをやった責任を取れるのか考えて欲しいってだけです』と話し、その話を終えた。彼の気のせいだと言ってしまえば無理矢理片付く話かもしれないが、なんとなく私はこれをオカルトな現象だと思いたい。

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