表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
日本怪奇譚集  作者: にとろ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

254/331

ママと呼ぶ子供

 ある日Aさんがショッピングモールで散策をしていた。ありきたりの無い商品ばかりだと思いながらも友人との楽しい時間を過ごしていた。


 その日、彼女に不思議なことがあったらしい。


 信じてもらえるかは分からないですし、気のせいといわれればそれまでなんですけど、あの時私は息子にあったような気がするんです。


 当時彼女は高校生だ。もちろん品行方正だったし子を宿すようなこととは無縁だった。


 友達と適当に見て歩いていたんですよ。買うものはあまり無いんですけど、お金が無くても本やCDくらいはギリギリ買えましたし、小遣いの範囲で遊んでいたんですよ。当時は……そうですね、ゲームセンターでプライズが主流になっていた頃でしょうか。友達とぬいぐるみを取ったりしていたんですよ。


 なかなか取れなかったりもしましたけど、それでもお金が極端にか狩るわけでは無いですから、ああでもないこうでもないと楽しんでましたよ。


 彼女たちがクレーンゲームに夢中になっていた時、Aさんのスカートの裾が引っ張られた。思わずそちらを見ると三歳くらいに見える子供がいたんです。その子は私の事を見上げて『ママ』と言ったんですよ。子供相手に向きになっても仕方ないので『ママやパパはどうしたのかな?』と優しく訊ねたら、その子が私のことを指さすんです。わけがわからず困惑していると、友達が『放っておくわけにもいかないし、係の人に預けよっか』と提案したんです。


 皆その提案に乗って子供の手を引いていこうとしたんですが、その子は私以外の手を振り払うんですよ。私とは手を繋いでくれるので私がその子を引いていく係になってしまいました。


 それから係の人にその子を引き渡したんですが、別れ際に『またね!』とこちらを見て手を振っていたんです。友達も『変わった子だったね』なんて言いながら日常に戻りました。ただ、その日のゲームで何故か私だけやたらぬいぐるみが取れたんですよね、関係あるのかは分かりませんが……


 高校時代にあったのはそれだけです。ここまでだったら怖い話ではないんですけど……いえ、そもそもそんなに怖くはないんですが……大学も出るとさっさと就職をして結婚したんです。職場結婚でしたが、それは今回の話とは関係無いんです。問題は結婚してからしばらくして産休に入りました。それで里帰り出産をしたんですけど……生まれた子を初めて見た時に何故かデジャブを感じたんですよ。私が産んだ子に有ったはずなんて無いでしょう? 何故かその子をどこかで見たような気がしたんですが、どこかはさっぱり思い当たりませんでした。それが分かったのは最近です。


「今、二歳の誕生日を過ぎたんですが、私の子が徐々に高校時代に迷子になっていた子の顔に似てきているような気がするんです。気のせいかもしれませんがなんだか少し不安なんですよ」


 それでも子供への愛情は変わらないんですが……あの時あの子が別れ際に言った『またね』の言葉が頭をよぎるんです。三歳まではもうしばらくありますが、もし三歳になった頃にその子にそっくりになっていたら私はどんな顔をすればいいんでしょうね?


 彼女の問いに答えは無い。ただの迷子だったという可能性も十分あるというか、そう考える方が自然だろう。しかし彼女が別れ際に言われた『またね』という言葉は上手く説明がつくものでは無かった。


 これを書いている頃には彼女の子供も三歳を過ぎているだろうが、今、その子がどんな風に成長したかは分からない。どんな形にせよ健全になって欲しいと願うことしか私にはできない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ