ドライアイの原因
「私って昔は目薬が欠かせなかったんですよ」
そう言うのはYさん、彼女は昔、酷いドライアイに悩まされていたそうだ。
酷いものです、何しろ三十分おきくらいには目薬をささないと乾いてかゆくなってましたから。大量に目薬を使うものだからとにかく安いものを買ってきて大量に使っていました。今では目薬にもさしすぎの注意があるものもあるみたいですけど、当時は複数個の箱をレジに持っていっても何も言われませんでした。
小学生の間は親が買ってくれていたんですけど、中学に上がってからはお小遣いが増えたんだから自分で買いなさいと言われたんですよ。だからとにかく安いものを選んでいました。
一応色々試したんですが、目がスッとするものや目の疲れを取ると謳うもの、アレルギー対策のものなんかも試しましたけど、どれも効き目は変わらないので所持金の範囲でできるだけたくさん買える安いものを選びました。それでもお金はかかるので少しだけ我慢したんですけどね。
それで中学生になってから、祖父が農家を引退して一人で暮らしていたので、『見に行ってきてくれ』と頼まれたんです。それで何度か祖父の家に行ったんです。その時私が目を擦っているのを見て『目がかゆいのか?』と聞いてきたので『やたら乾くの』って答えたんですよ。そうしたら千円札を出してきて、『帰りに目薬でも買え』と言って渡されました。その時は祖父の配慮なのだろうと感謝してありがたく目薬代にしました。
ただ、それから時々、祖父が私を呼ぶようになったんです。毎回目を大事にしろとお金をもらったんです。当時は孫に小遣いを渡しているだけだと思っていました。しかし目薬代でほとんど消えたんですけどね。それでも家のお小遣いを目薬代に回す必要がなくなったのはうれしかったんです。
何度も祖父の所へは行ったのですけど、家に行くたび祖父が酔っている時が多くなってきたんです。お酒はやめた方がいいと何回も言ったんですが、『もう長くないんだから気にせんでいい』と言って聞きませんでした。それでも何故か私にお小遣いを渡すのだけは忘れなかったんです。
で、まあそんな生活が長く続くはずもなく、祖父は割とすぐに身体を壊したんです。そこからはあっという間でした、医師は肝臓がもうだめだと言ったそうです。結局本人には伝えないと決めたようですが、祖父も家には帰れないだろうと分かっている様子でした。
結局、一年も経たずに亡くなりました。無理がたたったのだろうと言い、皆酒をアレだけ飲めば当たり前みたいな空気で葬儀が進んでいきました。つつがなく四十九日も終わって、祖父の家は片付けてから取り壊すことになりました。そこで遺品整理となって、家の中をひっくり返しながら必要なものと不要なものを分けていきました。
その時、誰の悲鳴だったかは覚えていないのですが、台所の方から声があがったんです。家族の全員がそこに駆けつけると、床下収納が相手いました。その中にはお酒が入っていました。今さらお酒が出てきても驚くことはないだろうと思ったんですけど、その便をよく見て私も悲鳴を上げました。そこに入っている酒瓶には全部蛇がつけ込まれていたんです。そりゃあマムシやハブをつけた酒があることくらい知っていますよ、それでも実際に見るのは全然違うんです。とにかく不気味で、全員一致でそれは処分されました。
祖父が亡くなってから、何故かドライアイはすっかり良くなったんです。理由が分からなかったのですが、両親は『おじいちゃんが守ってくれてるのよ』と適当に言うばかりでした。
結局、それを気にしても仕方ないと思って普通に生活をしていたんですが、高校に入った時に生物の先生が何気なく豆知識だがと教えてくれたんです。
「蛇っていうのは目に鱗が被さっているから瞬きをしなくても済むんだぞ」
そうなんとはなしに言っていたのですが、そこで何故祖父があんなに気前よく小遣いをくれたのか、何故祖父が亡くなった途端に目が良くなったのか、そして蛇の目が全て繋がったような気がしました。全ては憶測でしかないんですが、あまりにもタイミングが合いすぎているんですよね。ただ、その原因を深く考えると誰かを責めるような結果になりそうなので、私は『おじいちゃんが守ってくれている』という説を信じることにしました。どうせ証拠はないんですから信じたいことを信じることにしたんですよ。それで話はおしまいです。
それで話は終わったのだが、彼女の目は完全に回復して、今では花粉や黄砂の季節もなんでもないような強い目になっているそうだ。