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昼食は有料だ

 某県に住んでいるOさんは現在も霊現象かどうかは不明だが、とにかく不可思議な体験が続いているという。


 彼ももう三十が見えてきているが、話の始まりは高校時代に遡るという。


「あの頃は身体が弱かったんですよ」


 健康そうな顔色をした彼はそう言う。


 いろいろ酷い病気でして、結構危ない状態で、親族を呼ぼうかと話が上がっていたと後になって聞きました。その時は意識が混濁していてよく分からなかったんですが、何故か深夜あたりに意識がハッキリしてきて状態が回復してきたんです。


 それから少しの間一般病棟に入院して検査を終え、医師も驚くほどの健康体で病院を退院した。その時に祖母が私が危ないといわれた頃にお百度参りをしたと聞いたんです。足腰が怪しい祖母がそんなことをしたとは夢にも思わなかったので驚いたんですが、どうやら本当にやり遂げたそうなんです。それでお礼を言うと『坊が生きとって本当によかった』と温かい言葉をかけてくれた。


 そこまでは美談で済みました、問題はそれからしばらくしてからです。


 始めは祖母が縁側で日に当たりながら穏やかな顔で座ったままなくなっているのが見つかりました。年が年でしたし、大往生だろうということでそれほど悲壮感のない葬儀でした。私は泣いていましたが、祖母のためにも生きていかないとと決意をしました。


 それから祖母が荼毘に付されて四十九日が終わった日からです。二、三日に一度のペースで頭が割れるような頭痛に悩まされるようになったんです。市販品の頭痛薬は全く効かず、異常だということで病院で精密検査をしました。でも血液検査からMRIまでやりましたが、医師は首をかしげながら健康そのものだと言ったんです。検査がこれだけ正常なのに頭が痛いはずがないと仮病扱いされかかって、本当に痛いことを伝えると精神的な問題だろうと精神科への紹介状を書こうか提案されました。藁にもすがりたかったのですが、諦めて頭痛がする時は必死に耐え続けるようにしました。


 そんな状況で必死に受験勉強をして大学に受かりました。私の医療費を払ったので国公立以外無理だと言われていた大学に受かりました。そこからは頭痛がする以外は順調な人生だったんですが、卒業が見えてきてから就活も決まっているのに頭痛が治まらないのには困っていましたが、逆にそれ以外は順調な人生でした。


 しかし、大学を卒業して就職してからすぐに両親が亡くなったんです。事故でもなんでもないのに急な話でした。祖母が親族のまとめ役だったので、祖母が亡くなってしまった時点で親族の関係はほとんど無くなり、天涯孤独のような状態になりました。それでも必死に会社勤めはしたんです。頭痛が続いていたのに、それにさらに胃痛と尋常ではない倦怠感に襲われたんです。


 人間ドックにもかかりました。しかしいい年をしているというのに対して健康を意識していない、むしろ不健康だと思っていたんですが、結果は全て正常。むしろここまで値のいい人はそういないとまで言われました。


 その晩に夢を見ました。祖母と父母が私のまわりに立ってニコニコと私を見下ろしているんですよ。なんと言っていいのか……憎しみでも喜びでもない、ただぼんやりと私を見ていました。


 そして朝起きた時になんとなくその夢の意味が分かったんです。きっと皆私に『生きろ』と伝えたかったのでしょう。何しろ身体の不調で心にまで不調を来しそうでしたから。その夢を見て身体の不調はまったく変わりませんでしたが、何故か死ぬ気が全く無くなりました。


 それから後になってようやく何故あんな夢を見たのかが分かりました。おそらくアレは『私たちの犠牲を無駄にするな』と言いたかったのでしょう。きっと私のために祖母だけでなく父と母も命を賭けたのでしょう。だから簡単に死なれるわけにはいかない、そういうことなのだと分かってしまいました。


 そこでテーブルのコーヒーに少し口をつけて彼は言う。


 多分私は当分健康診断の心配はしなくて済みそうです。祖母の願いは聞き届けられましたが、多分その願いを聞き遂げる代わりに命を三つ取り、私に長い苦痛を味合わせたいのだと理解してしまいました。


「だから私は死ぬこともできず、ただ苦痛と共に生きていくしかないんですよ」


 そう語って彼はとても悲しそうな顔になった。結局、何もかもただで解決することはない、そう言うものなのだろうと私は思った。


 果たして彼に謝礼がどれほどの価値を見出すのかは疑問だったが、渡すとそれを静かに受け取り彼は出て行った。


 私は彼の出身地もどこでお百度参りをしたかもきちんと聞いたのだが、彼の話を聞くかぎり、それを書くべきではないと判断した。

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