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居ないはずの誰かの思い出

 Pさんには妹がいたらしい。本人に聞いているのに『らしい』としか言えないのはいたような気がする程度の事だからだそうだ。その件について伺うことにした。


「なんと言いますか、妹はいたと思っているんですよ。ただどう考えてもそれだと現実と矛盾しちゃうんですよね」


 そんな言葉から彼の思い出話は始まる。


 子供の頃の話なんですけど、当時にしては少数派だったかな? 両親が共働きだったんですよ。それでも生活が成り立った時代ってことですね。それはさておき、共働きとなると子供が帰ってきた時は一人になる時間があるじゃないですか?


 その時間を僕は妹と過ごしてたんですよね。そう信じているんですよ。


 両親が居なくても家に帰れば妹がいる。そして妹とマンガを読んだりゲームをしたりして時間を潰していたんですよ。宿題の方はまあ……ギリギリになってやってましたね。


 それが当たり前だと思ったまま過ごしていたんです。幼稚園の時代から帰ると妹のいる生活が普通だったんです。やたらゲームの強い妹でしたよ、トランプなんかのアナログゲームから、格ゲーやシューティングゲームでもトップスコアを取っていましたし負け無しでした。そんな妹がどこか誇らしい気さえしたんです。僕も結構頑張ったんですけどね、勝てたのは妹が露骨な接待勝負をしてくれた時だけでした。


 そうして小学生の間は何の問題も無く生活ができていました。それで中学に上がった時に親に言われたんです。『あんたはホントに手間がかからない良い子だね』それ自体は喜ばしいことなのかもしれませんが、妹についての言及が全く無いんです。そこでふと気づいてしまったんですよ、妹っていつからいたんだ? そんな疑問が浮かんだんですよ。


 よく考えると妹と夕食も朝食も一緒に食べた記憶が無いんですよ。でも気がついたら学校から帰った僕を待っている、それが当たり前と思っていたんですが、よく考えるとどうやっても説明が付かないんですよね。


 それからそれとなく父と母に妹のことを聞いてみたんですが、本当に何も知らない様子を見せたんです。意味が分かりませんでした。


 中学に入って初日、家に鍵を開けて入ったんですが誰も出迎えてくれないんですよね。小学校にいた時は『お兄ちゃん! おかえり!』と出迎えてくれた妹がいないんですよ。どうしても説明が付かないんです。


 結局、何もかもが謎のままだったんです。ただ、最近気のせいじゃ済まないことが起きていまして……


「何が起きたんですか?」


 祖父が認知症を患い始めたんですよ。まだ家族の顔はハッキリ分かりますし、徘徊なんかもしません。今のところはまだ激しい物忘れくらいで済んでいるんですがね……祖父が時々あの娘を呼べって言うんですよ。祖父が言うので派はのことを娘と呼んでいるのかと思い呼んだんですけどどうやら違うようでした。


 祖父はまだ物忘れ以外は元気なんですけどね、ただ、どうして突然居ないはずの娘を呼ぶのか分からず皆困惑しているんです。


 そして、気のせいじゃないとなんとなく思っているんですけど、祖父が呼ぶその娘は僕が見た少女と同じではないかと思うんですよね。


 最後に彼は『もう僕には妹が見えませんし、祖父にいくら言われてもどうしようもないんですけどね』と少しだけ自嘲気味に言い、彼はそっと話を終えた。


 私は謝礼を差し出そうとしたが、彼は『口寄せのようなことができる知り合いはいませんか? 謝礼よりそっちの情報が欲しいのですが』と言われたものの、そんな伝手はないので謝罪の言葉を述べて謝礼を少し無理に押しつけて私はそこを後にした。

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