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日本怪奇譚集  作者: にとろ


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もう一人の私

 これはZさんの話だが、諸般の事情によりほとんど全ての情報を特定出来ないように変更していることをご理解していただきたい。


 始めは私に入った怪談を聞いて欲しいというメールだった。そこには『不気味で仕方ないのですが警察に言えるような話でもないので相談に乗ってくれませんか』というものだった。


 物理的な暴力などは私の専門外であることを伝え、霊的なことは関係をあるのかを訊ねると『多分関係あると思います』というメールが返ってきたのでお話を伺うのを決めた。


 とはいえ、話の途中で出てきたZさんは大学生、あまり高級店に呼んであらぬ誤解を受けたくないので近辺のファミレスで視線がある仲で話を聞いた、人の噂ほど怖いものは無いので誤解を受けるような行動は避けたい。李下で冠を正さずということだ。


「相談に乗っていただきありがとうございます。なにぶん誰に頼って良いものか分からない話なので相談させていただきたいのです」


「それで、ご相談というのは?」


 私は早速本題に切り込むと、彼女は小声で話し始めた。ここはファミレスの奥の方の角席である。


「実は……私も大学の入学祝いにスマホを買ってもらいまして、高校生でも持てていなかったんです。まわりのクラスメイトは大体持っていたんですが、両親の方針で大学に行くまではダメだと言われたんです。ただそれが非常にマズいことでして……大学に入ったらスマホが手に入ったので私も不用心に好き放題使用したんです。両親も多分そうなるだろうと思っていたのか、私の契約プランを使い放題にしていました。なので当然スマホを好き放題使えるわけですが……YっていうSNSはご存じですよね?」


 私はもちろん頷いた。有名な短文書き込みサービスだ。


「問題は今までスマホを使って誰かと繋がると言うことが無かったのであっという間にのめり込みました。そしていろいろな書き込みをしたんですが、アクセス数が表示されるのでどんなことを書けばどのくらい受けるのか調べていったんです。そうすると結論が酷いものでして……センシティブな投稿をすると一気にアクセスされるんです。一桁も二桁も違うと、やはり承認欲求が満たされるんですよ。だから身元をばれないようにギリギリの際どいラインを撮影してアップしました」


 それはどうなのかとは思うのだが、彼女はセンシティブな投稿はしてもアウトなラインを超えていないと言うのでそれを信じて話を促した。


「それからは一気にフォロワーも増えて素晴らしいと思っていました。誰も私のことを調べ上げたりしないだろうと思ったいたんです。でも突然見知らぬ人からDMが届いたんですよ」


 そこに書いてあったのは一つのアカウントの名前で、Zさんの複垢なのでは無いかと質問してきたものだった。彼女は裏垢を作るような方法をまだ知らず、作りようが無いので違いますと端的に答えておいた。


「でも興味が湧いちゃったんです。だからそのアカウントを検索してみたんですよ。そうしたら、私の写真には写っていない……所謂アウトな部分も平気で載せていたんですよ。私ではないのでリスク込みでやる分には自由だと思いますよ、ただそのアカウントなんですが、映っている部分だけで判断すると妙に私の写真と一致する部分があるんです」


 そこには明らかに自撮りで無いと撮影出来ないようなアングルでの写真が載っていた。何より肌を見せている写真では自分から肌を見せなければそんな写真は撮れないはずで、自分では無いのは明らかなのだが、その見えている部分に、彼女とまったく同じ場所にほくろを見つけた。偶然にしては出来すぎていると思ったそうだ。


「その……ここまで話して置いて申し訳ないのですが、オチらしいオチはないんですよ。ただそのアカウントは私が写真を載せる度にそれより際どい写真を載せるので、試しに投稿をやめたらそのアカウントは沈黙しました。だから私はそっと初めて作ったアカウントを削除したんです。真相は分かりませんがただ不気味なだけなんですよ」


 アカウントを消すとそっとYの利用をやめたので、そのアカウントが今でも動いているか確認はしたくないらしい。わざわざ自分に執着しているかもしれない人間を見ようとは思わないという。

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