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日本怪奇譚集  作者: にとろ


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言えない趣味

 今回、Fさんが話をしてくださるそうなのだが、『絶対に匿名にしてくれ』という条件で聞いたためほとんどの固有名詞は書かれないことを理解して欲しい。


 そして今回話を聞いているのはFさんの自宅だ。普通はこんなことをしないのだが、本人があまり人通りのあるところで話したくないと言われたので仕方ない。


「それで、一体どんな体験をしたんですか?」


「そうですね……それを話すにはまず私の趣味から話しましょう」


 それから話が始まった。


 実は私はシチュボやASMR……まあそういったものが趣味だとお考えください。なかなかに入れ込んでいまして、サイトによっては結構な金額で音声作品を買っているんです。言いたいことは分かりますよ、きっとそのくらいは多少変わった趣味だと仰りたいのでしょう? 問題は最近の話なんです。


 何が問題かと言えば録音の声では我慢出来なくなったんですよ。そのきっかけなんですけど、お墓参りなんですよ。


「お墓参り……ですか? それだけで一体何があったと……」


 問題はそこなんですよね、実は実家の墓参りの時なんですが、ウチは結構古くからそこに住んでいたので墓がたくさんあるんですがウチの墓は本当にうちの家系の墓なのか怪しいものが普通にあるんですよ。でお墓参りなんですが、線香を供えるにしても、一つの墓にせいぜい一二本じゃないですか、だから私は手を抜いて墓の確認なんてせず、間違いなくウチの墓であるところを中心によく分からないところにも採り得ず線香を供えて手を合わせたんです。


 誰かの冥福を祈ろうなんて気は全く無く、ただ墓の名義を確認するのが面倒だっただけなんですよ。そんなことをしたら幽霊が出てきたんですよ。納得いきませんよね? 人がわざわざ線香を供えたのに悪いことをしたようにでてこられても困るんですよ。


 それはともかく、問題はその幽霊が少女なんですよね。


 夜中に金縛り中に目が覚めて体を動かせない状態で少女の霊が私の方に歩いてきてそっとささやくんです。


「呪ってやる……死んじゃえ」


 そんなことを耳元でささやかれたんです。朝起きると夢だったのかと思ったのですが、昨日の生々しい声がどうしても夢とは思えなかったんです。


 その日は仕事に行ってきたのですが、帰宅してイヤホンをつけ、音声ファイルを開いたんです。困ったことに何一つリアリティが感じられなくなっていました。


 あれだけゾクゾクしたささやき声だったんですが、昨日のあの声に比べてどうしても臨場感が足りないんです。


 その日は寝たんですが、その幽霊は出てきませんでした。


 それから彼は伏し目がちに言う。


「これだけならまだ話して問題無いんですけどね……それからは墓参りが趣味になったんです。墓石を見て俗名から男女どちらが入っているか確認して、それから若い女性が入っている墓を選んで線香を供えるんです。案外お墓って多くて、道の脇や少し山に入ったところにあったりするので参る墓を探すのはまったく困らないんです。誉められたものじゃないのは分かってますよ。でもあの時の幽霊のささやきが忘れられないんです。今のところ勝率は五分くらいですね、結構な数を参ったのですが、出てきてくれるような少女はほとんど居ませんでした。その中から耳元でささやいてくれる人を探さないとならないんですからね」


 それから彼は趣味で季節関係無く墓参りをしているらしい。もはや墓荒らしにも近いような気はするが、とにかく彼は一度の霊体験が忘れられず、それを再び味わうために必死らしい。幽霊の言っていることも大概物騒なのだが、今のところ彼に呪いらしきものが現れていないのでこれは幽霊の怪談ではなく人間が一番怖いという怪談なのではないかと思えてならない。

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