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ネトゲに来た

 Iさんは某有名MMOをプレイしていたそうだ。


 その日、なんとなく休日前にMMOをプレイしていた。オンゲなので休みの日でもないとプレイ出来ない。幸い明日は休みなので問題無い。


 IさんはいつものメンバーであるA,B,C,DでAは自分、それ以外の三人がログインしているのを確認してギルドチャットを始めた。とりとめのない話だが、全員オフラインで友人関係なので割とローカルな話題もできる、シャウトでもしない限り問題無いと思っていたらしい。


「それで、何が起きたんですか?」


 私が長めの前振りにそう訊ねると、彼は私を制するように手を出して遮る。そして彼の不思議な体験の話が始まった。


 俺とBがダメージソース、Dがタンクで、Cがヒーラーの構成で何度も新規実装ダンジョンに挑んだ関係なのでそれなりに仲が良かったんです。その日は外が雨だったせいかネトゲに全員集まったんですよ。ただ、その日はギルドのステータスを見ると全員バラバラの所にいました。そこへCからレアモンスターがポップしたので大急ぎで集まってくれとチャットが来たんです。各自転移魔法や転移アイテムを使ってCのいるところに行きました。


 そこには大型のドラゴンが居ました。名前とかは重要じゃないのでいいでしょう? 死ぬとペナルティのあるゲームだったのでその場には様子を見ている個人が急いで招集をかけているようでした。


 俺たちが一番早く集まったので、Dがドラゴンに挑発を打ちました。それでヘイトを一気に稼いでモンスターを俺たちのパーティで占有しました。


 後はDが耐えながらヘイトが飛んでこない程度にCがヒールを調整しつつ俺とBでチマチマ削って行ったんです。見つけたのが滅多に出ない個体だったので戦闘は何時間も続きました。途中、危ない場面もありましたが、適切に回復が飛んできたのでギリギリのところでDは踏みとどまり、俺とBがやり過ぎてヘイトが飛んできた時にはすぐにこちらにヒールを切り替えてくれました。つまりCが大活躍をして俺たちは勝ったんです。そうするとすごい偶然なんですがレアドロップが落ちたんですよ。


 C以外このアイテムの抽選から降りようと思いカーソルを乗せようとしたところ、『三人で抽選しなよ』とCが発言したんです。そのアイテムは強力な装備の素材になったり、プレイヤー相手に売れば一財産になるようなものです。どう考えてもCのおかげで勝てたようなものなのに自分が降りると言うんです。結局三人でルーレットを回してDが入手しましたが、すぐにギルドの共有倉庫に入れて誰でも自由にできるようにしたんです。


 それで解散となったんですけど、別れ際にパーティが対象の全体回復スキルを使ったんです。リキャストがやたら長いので儀式的な使い道しかないんですよね、ボス戦で使おうものならヘイトが一気にヒーラーに集まって総崩れになる程回復しますから。


 多分あの場の皆が、こうしておけばCが好きなように使うだろうと思っていました。そして達成感に包まれながら日曜日の半日以上惰眠を貪りました。


 ほとんど寝て過ごした日曜の後、登校したんですがBとDがなんだか暗い顔をしているんです。Cがいない事に違和感がありつつも二人に声をかけると俺に言ってきたんです。


「なあ……Cって先週葬式やったよな?」


 そこまで言われるまで気づかなかったのですが、Cは先々週交通事故で死んでいたんです。仲が良かった俺たちは三人で葬儀に出席してCの死を悼んだんです。三人とも参加したはずなのに、あの場にCが操作するキャラが居たことを誰も不自然に思わなかったんです。偶然では説明なんて付きませんし、Cはパスワードを家族だろうが教えていないと豪語していました。だからあれはなんだったのかという話になったんですが、Dが言うんです。


「皆落ちようって話した時にCのやつ、福音のスキル使ったじゃん? アレって俺たちへのお別れの挨拶だったんじゃないか?」


「そうなのかなあ……」


「そういうことにしておこうぜ。だってあの場で何時間もリキャストにかかるスキルを使う理由なんてないじゃん。多分ドロップの抽選から降りたのもそういうことだろ」


 明確な答えは出なかったものの、Cとのお別れだったのだと皆で納得してそのゲームのプレイはそれ以降していない。Cが居なくなったことから目を逸らしていたそうだ。


「社会人になってから皆散り散りになったんですけどね、ゲームのアカウントだけはサービス終了まで残しておいて、Cの命日に集まろうと約束をしているんです。今年はまだサービスが続いていますが、いつか皆別れることになるんでしょうね」


 彼はそう言って寂しそうに外を見た。彼は財布を取り出すとクレジットカードを私に見せて言う。


「社会人になって初めて作ったやつなんですけど、これをゲームの月額支払い専用にしているんですよね。できることならいつまででも遊びたいとは思っています」


 ネットは世界中に広がったものの、未だにCくんがいるところまでは届いていない。

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