変わらず赤い
空山さんはギリギリ電車が通っている町に住んでいる。しかし彼はその駅を決して使わないように自家用車をしっかりメンテしているらしい。その理由を聞かせてくれるそうなのでうかがった。
「初めては子供の頃にデパートへ電車で行こうとなった時なんです。お年玉をもらって友人数人と電車でデパートへ向かおうとした時です」
その時に見たものが忘れられないんですと語る。
あの時に見たのは真っ赤な人でした。肌も服も鮮やかな赤だったんです。こういう話だと血の色だと言いますが、アレはどちらかと言えばRGBでR以外ゼロに設定した時のような色でした。血なら赤いと言っても鉄の赤ですが、多少鈍い色をしたりしていますが、アレは原色の赤でした。その男はホームでベルが鳴ると乗り口に近づいたんです。しかしヤツは電車に乗りませんでした。入ってくる電車に飛び込んだんです。
あっけにとられて固まっていると、友人が手を引いて『何やってんだよ、さっさと行くぞ』と言われたんです。その時にアレが自分以外に見えていないのだと気がつきました。
もちろん人が飛び込んだ証拠は何一つなかったですし、憂鬱な帰りの電車が止まった駅でも何一つ騒ぎになんてなっていません。私もそこでその話をすると不気味がられるだけなのは分かりきっていたので話さない程度の分別はありました。
それ以来、出来る限り電車を避け続けました。両親が市でゲームやマンガを買ってやろうか? と言われた時でさえ我慢しました。アレを見るよりマシですから。
ただね……どうしても避けられないイベントがありまして……小中高の修学旅行では町に駅があるので強制的に電車に乗ることになるんです。嫌で嫌で仕方なかったんですが仕方なく駅に行きました。
中学校に上がろうが、高校に上がろうがその男はまったく変わらない赤い姿で駅に立って電車に飛び込んでいました。もちろん誰一人気にしていません。不気味なこと極まりない状態でした。
その時に思ったのは老いのない世界というのはもしかするとああいうものなのかもしれないなと考えてからゾクリとしました。
それ以来電車には乗っていません。おかげで自動車とバイクの免許を取って、電話も毎年最高性能のものを選んでいます。サブ回線にケータイも用意して電車にだけは乗らないように気をつけているんです。電話を嫌う人にはメールで送っておきます。そういう直接会えない人は会わないにこしたことはないです。
怪談はそれだけの話なんですけどね、あの男の正体が未だに分からないのはなんとも不気味ですよ。分からない方が良いのは分かるんですけどね。一回あの駅でなにか事件があったのか調べ上げたことがあるんですけど、怪我人一つ出ていないんですよ。だからあの男が人間でさえないと考えると、まだ電車に飛び込んだ人間だった方がマシだと思いますよ。
会談はそれで終わった。当然のことだが私は車で帰ったし、この話をしてくれた彼がなぜ駅から近いところではなく、町外れの駐車場が広いファミレスを選んだのか分かった。結局最後までその怪異を確認する気にはならなかった。