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日本怪奇譚集  作者: にとろ


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偶然なのかな

 山田さんは田舎の出身だそうだ。田舎だった故、人が少ないので商売やその他諸々の誘惑は無かった。悪徳商法も元が取れないので近寄らない、そんな集落で育った彼は、大学に進学して初めて見た物が多かった。


 正確には受験の時にも田舎には無いものを見たのだが、その時は光景を楽しんでいる余裕などなかったので、合格して安心し進学をしてからようやくそれらを楽しむ余裕ができた。


 学生の本分は勉学である、そんなことは分かっていても遊びに対する誘惑は多数あった。彼はそれを必死に抑えて留年だけは避けなければと頑張った。何しろ金のない実家が大学に受かったと送り出してくれたのだから留年などするわけにはいかない。当然のことだった。


 そうして大学とアパートとバイト先をグルグル回る生活をしている中、歩いていると声をかけられた。


 どこかは分からないようにしてくださいとの山田さんの希望により詳細は伏せるが、声をかけてきたのは有名な宗教だった。彼は地元にはそんなものさえないと言う事実になんとなく寂しくなったが、丁寧に話して断った。宗教の常としてそれなりに粘られたのだが、宗教に入っても一切献金ができないような生活を送っていた彼にはそれがお金のある日との道楽ではないかとしか思えなかった。


 割と粘ろうとした勧誘の人だが、近くの喫茶店に誘われそうになった時、お金が無いんですが奢りですかと言ってしまい、金が無いことが向こうにも分かったのだろう、やんわりとそれで勧誘は終わった。


 それからは普通に勉強をして単位を順調に取得していた。困らない人生だなと思っていたのだが、ある日道を通りがかった時、ファミレスをなんとはなしに見たところ、忘れもしない自分を勧誘した男がいた。


 ついついガラス窓を覗いてみると、その男は美味しそうにハンバーグを食べていた。知識が多いわけではないが、その宗教が基本的に肉を禁止していたのは知っていたので、その程度の信仰心なのかとあきれ半分に見てその場を立ち去ろうとした。


 そこで自分の後ろから轟音が響いた。音の正体は軽自動車で、ファミレスに前のめりに突っ込んでいた。仕方なく警察に連絡し、現場の様子を話したのだが、ただのアクセルとブレーキの踏み違えだったし怪我人もいないということで、賠償こそあれ、刑事事件に呼ばれることはないので安心して欲しいと言われた。


 ただ通りがかっただけなのに証人になってくれなどと言われても困るので、それは不幸中の幸いだなと思った。


 それだけの話なのだが、突っ込んだ車に乗っていた男は、寄っていたわけでも疲れていたわけでもない、恒例でもないごく普通の男だった。信じる気など欠片も無いのだが、彼はその宗教には絶対関わりたくないなと確信は無いがそう思ったそうだ。

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