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日本怪奇譚集  作者: にとろ


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プラセボが効いた

 Nさんは少し前、体調不良に悩まされていたらしい。


「本当に酷かったんですよ。朝起きたらトイレにこもって、やっと出てきたら食事をやっとの思いで水と一緒に流し込んで大学に行くような生活でした」


 流石にそこまで来るのは尋常ではないということで病院にかかっていたそうだ。


「ただ、病院でもCTからMRIまでやって結構なお金がかかったんですが、それでも原因不明だったんです。いよいよ参っていた頃に医師が治験に参加しないかと言ってきたんです」


「治験というと、薬の効果を判定するものですよね?」


「そうですよ、医師も何故か歯切れが悪かったんですが新薬があるので試してくれと言われて、きちんと報酬も出ると言うことで、金がかかりすぎていた自分には治療しながらお金がもらえるというのは魅力でした」


 そうして治験に参加した彼だが、いまいちよく分からなかったという。


「治験って病院でやるものだと思っていたんですよ。でも実際はただの山奥の合宿所みたいなところに全員押し込まれたんです。しかも結構な設備がそろっていたんですよ。ジム顔負けの設備でしたが冷静に考えると条件を揃えないといけないところでそんな自由があるっておかしいんですよね」


 奇妙なのはそれだけではなかったそうだ。


「食事の希望まで聞いてくれるんですよ? おかしくないですか? どう考えても食事が自由だったら結果に差が出るじゃないですか。でも毎日何故か地検の報酬が支払われていたので文句も言わずしたがってました。なんで毎日謝礼が払われるのかは分かりませんでしたよ」


 そんな奇妙な治験はただ薬を飲むだけのものだった。


「一応本物か偽薬かどうかは分からないようになってたんですけど、だからなんだってくらい環境がバラバラだったのでほとんどの人が大して気にしていませんでした。理由は分かんないですけど、皆さん体調は悪そうでした。ただ、なんの病気に対する薬なのかは教えてくれないんですよね。ただ錠剤を飲むだけです。私が飲んだのはなんかしょっぱいタブレットを一錠一日に一回飲むだけでした」


 そうして二週間くらいで治験は無事終わった。Nさんの体調は驚くほど改善した。


「何も教えてくれなかったんですが、体調が良くなったので気にしないようにしました。効けばなんでもいいやって思いました。でもその後病院で一応検査をした時に言われたんですよ」


「なんと言われたんですか?」


「『ああ、良くなってますね。うーん、偽薬だったんですがね』と言われました。そんなことを言う必要があるのかは分かりませんが、偽薬でも治っちゃったんです。そして良くなったのでもう来なくて大丈夫です。ただ、時々塩を少し口に含むようにしてくださいと言われたんです」


「別に誰かが明言したわけじゃないんですが、何もかもがおかしかったあの治験は心霊的なものへの効果を計っていたのではないかと思います。で、結果は塩が悪霊に効くと言うものだったのだと思っていますよ。実際それから塩を時々なめるように口に含むと体調が良くなっていますしね。治験でもなんでもなかったとは思いますが、治ったからいいかと今では見も蓋もない考えをしています」


 そう言って彼は笑った。結局、効けばなんでもいいし、まさに鰯の頭も信心からということわざをそのまま表したような話だと感想を抱いた。

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