表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
239/293

お高いマイク

 ある時、Dさんと名乗る人が『是非聞いて欲しい話がある、謝礼ももらえるならどうしても聞いて欲しい』と言われ、薄謝であることを伝えた上でお話を聞いた。


「私は幽霊を絶対に許さないんです」


 例体験を聞きに来たのにいきなりそんな言葉から始まった。彼女には言い知れない恨みがあるようだ。なんなら彼女の方が下手な霊より意志が強いのではないかと思うくらいだ。


「何を体験したんですか? それは余程のことですよね?」


 私の質問に待ってましたと彼女は愚痴を大量に流してきた。


「私は配信者なんですけど、ASMRって知ってます? ああ知ってる、なら話は早いですね。配信の企画をいろいろとやったんですけど一番ウケがいいのはASMRだったんです。収益化までできたのもASMRのおかげなんですよ。それでそこそこお金が入ったので、これなら元が取れるなと高額なマイクを買っちゃったんですよ」


 彼女が買ったマイクはプロが使っている定番品だ。具体名は伏せるが有名なやつだった。


「この円安の中大枚はたいてマイクを買ったんです! 始めは良かったんですよ、みんな聞き入ってくれましたから。なんならこっちを本業にして務め人をやめるのもありじゃないかと思えるほどだったんです! でも! それが! たった一匹の畜生で滅茶苦茶になったんです!」


 いきなりヒートアップする彼女を必死になだめる。ここはファミレスだ、大音量を流すべきではない。なお、もう少し話を聞くのに適したところもあるのだが、彼女曰く、そことの差額を謝礼に入れて欲しいそうなのでファミレスで話を聞いている。


「落ち着きましょう、ね? 何かあるのでしょうが抑えてください」


「ふぅ、失礼、思い出してイラついてしまいました。問題の始まりはマンションに猪が入ってきたことだったんです。ああ、詳しいことは知らないんですよ、防音室で収録中だったので外の騒ぎなんて聞こえなかったんです。ただ、後で聞いたのですが、マンションの敷地に入ってきた野生の猪を駆除するのに随分苦労したそうです。その時は気にすることは無かったんですけどね……」


 ようやく心霊的な話になってきて安心した。延々とASMR論を聞かされるかもと思っていたので一安心だ。


「それで、何が起きたのですか?」


「猪が駆除されて数日後からマンション内でうなり声や吠え声が聞こえるって話が流れ出したんです。二回や三回でも窓のすぐ外から聞こえてくるようで不気味がっている人も居ました。私は気にしませんでしたけどね」


「猪の幽霊が出たのでしょうか?」


「さあ? 問題はそこではないんですよね。別に駆除されたのを逆恨みするのは勝手ですけどね、猪の声くらいで大騒ぎするような地域でもないですし、そもそも駆除自体定期的にされていて、人間が大勢いるところに出たから珍しいってだけですから。だから割と皆さん気にしていませんでしたよ問題は私のことです」


 そう言っていよいよ恐ろしいという感じを出して話しがすすむ。


「ある日ASMRを収録していたんです。そうしたら防音室の中なのにラップ音が聞こえてきたんですよ。怖くはないんですけど、後で編集で消すのが面倒だなって思いました。ただ……ラップ音が徐々に大きくなって鳴り続けるんです。私も無視を決め込みました。どうせデジタルデータなのでいくらでも編集出来ますし、採り直しが増えるのは面倒ですが、逆に言えばそれだけですから。ただ、私が無視し続けたのに業を煮やしたのか、獣臭い感じがしたかと思うと『パァン』と至近距離で大きな音が鳴ったんです」


「それは怖かったですね」


 そこまで我慢出来たのもすごいと思うが、彼女は何故か憤っている。


「怖くはないんですよ! でも! あの音のせいでクソ高いマイクが壊れたんです! ものすごく高かったのに!」


「ちょ!? 小声でお願いします!」


「失礼、そういうわけで今は本業の会社勤めと書店でアルバイトをしているんです。一応生きているマイクで配信もしているんですけど、安いマイクのせいか登録者が増えづらいんですよね。あの猪ものすごくムカつきますよ!」


 怪談……なのだろうか? 動物霊の話は聞いたことがあるけれど……ラップ音がしたと言うことなので怪談ということにしておこう。


 私は深く考えるのを諦めて彼女に謝礼を差し出した。壊れたというマイクの値段をこっそり検索すると本当にすごく高かったので謝礼にもう一枚添えて差し出した。霊的にはあまり怖くないのだが、相当な被害が出たと言う意味では怖い話だった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ