参拝と御利益
Kさんは神社に参拝をしていた。過去形なのは今では近寄りたくないからだそうだ。彼は生活費に困っているので謝礼がもらえるならと話してくれると言う。『薄謝ですよ』とあらかじめ言ったのだが、それでもいいからと取材を受けてくれた。
「いやあどうも、お手数おかけしますね。すいません、ここの代金は奢りですよね?」
私は『まあ……そうですね』と言うと、すぐにハンバーグ定食とドリンクバーを注文した。ファミレスでと言われた理由はその方が奢ってもらいやすいのが理由だろうと予想が付いた。まあこんな因果な話をしているとそういう相手だって珍しくはない。少し気分を害したが、それを悟られないように話を聞いた。
「ああ、怖い話でしたっけ? 実はまだ起きてないんですよねえ。まあ起きたら困るんですが」
初手からそれだ、怪談を期待出来るのかは甚だ疑問だがそのまま話してもらった。
始まりはねえ……中学の頃なんですよ、あの頃はまだガラケーが主流でねえ……今じゃ大抵のゲームは課金に上限があるけど昔はなかったんですよ。で、少し足を伸ばすと一部で有名な神社があってね。まあそこへ友人と参拝に行ったんですよ。
理由? ああ、家で課金するとギャーギャー言われるからですよ。何しろ当時のゲームは通信量に合算出来ましたからね。一万超えの料金を出して親にしょっちゅう叱られてましたよ。
それで、その時はゲーム仲間の悪友と神頼みに言ったんですな。まあガチャに天井がない時代ですし、青天井で金のかかる趣味でしたよ。
お参りに行って賽銭箱に五円を放り込んで祈ったんすよね。当時は高価の両替にそんな手数料かからなかったですからできたことですね。今じゃ少額の賽銭は嫌われるみたいですけどね。
で、お参りをして賽銭箱の前でケータイを開いてゲームを起動したんですよ。ああ、当時はスマホじゃないので本当にカードの戦闘力を比べるだけのゲームですね、あんなのでも楽しめた時代があったんですよ。
そうそう、結果でしたね。その日はまだゲームを起動させてなかったんですけど、ゲームを動かしたらギフトが届いてましたよ。運営がなんだったか忘れましたがやらかして詫びにガチャチケを配ってたんですよ。その配布でSSRの五枚抜きが出来ました。当時は確率の明記すらなかったですから奇跡みたいな引きでしたね。それで味を占めたんですよ。翌日曜日も参拝したんですが、一人で行くと意味が無いのかガチャなんてできませんでした。
そのゲームはもうサ終しましたけど、その後月曜になると一緒に参拝した友人が松葉杖をついて登校してきました。どうも家の玄関で転んで足を折ったらしいですね、マヌケなやつです。
その時になんとなく……いえ、なんでもないです。その後しばしして新しくできた友人グループで高校受験のために皆で参拝したんですよ。ああ、私たちは皆でお祈りをして、賽銭を入れて終わりです。
偶然というのは恐ろしいもので、受験でヤマが大当たりして無事に合格出来たんですよ。おかげですっかりその神社の敬虔な信徒みたいになってましたね。え? 友人の今ですか? まあそれはいいじゃないですか。
それからしばらくして地元の大学を出て、就活になってまた参拝したんですよ。就活は運じゃないと言いますけど、神頼みだってしたいじゃないですか。その時は『効くよ』と言って連れてきたやつと一緒に参拝したんです。その時に俺は五円を入れたんですけど、ソイツは一万投入してましたよ。金があるななんて思ってました。その後そいつにカフェに誘われまして、なんでもあいつ、学生結婚していて子供までいるそうなんですよ。ただその子供が難病を抱えているって言うんですよね。で、その子供のために神頼みで一万入れたって言うんですわ。
オチ? ないですよ。それで俺は地元を離れて就職しましたね。それ以来神社となの付くものには行ってないです。やっぱりね、その……ね?
ああそうだ、その神社の場所を教えられるんですけど行ってみませんか?
私は最後までその音この話を聞くのを諦めて、伝票を持ち『払っておきます』と言ってそうそうに店を出た。彼の地元は聞いたのだが、ここに記すわけにはいかないだろう。