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日本怪奇譚集  作者: にとろ


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形見のテレビ

 ある冬の日、Yさんの親戚が一人亡くなった。もういい年だったし、いよいよかと言われていたので悲しみは少なかったそうだ。しかし今、彼女は割り切れない問題にあたってしまったらしい。それを話してくれるそうだ。


「せめてその人が嫌いな人だったらまだ困らなかったんですよねえ……なまじ生きているときに仲が良かった親戚なので……」


 暗い顔をしてYさんは顛末を話し出した。


 始まりは初冬の寒くなってきた日でした。叔母が亡くなったんです、どうやらヒートショックとか言う温度差で不調が悪化して心臓に負担がかかったらしいです。私は直接聞いていないので本当かは知りませんが。


 問題はその親戚が結構素封家だったんですよ。当然のように相続争いになりました。私は相続とは関係無いですし、酷いものだなと思いながらヒートアップする皆さんを見ていました。それで、結局私は何ももらわないと思っていたんですが、その親戚が使用していたテレビを相続……と言っていいほど立派なものじゃないですがもらいました。


 叔母には昔からよくしてもらっていたのでそれをもらって自宅に帰りました。高校生には買えるものではなかったので、確かに価値のあったものなのですけど、私もあの争いのおこぼれをもらったのかと思うと少し気が重くなりました。


 そのあと雑に配線をしてテレビをつけてみたんです。普通に使えましたよ、画質は良かったですね。それからもしばらくは揉めていたんですが、私は気にせずに地上に戻っていきました。


 ある日のことなんですが、勉強中にウトウトしていたら笑い声で目が覚めたんです。びっくりして周りを見ると、テレビがついているのに気がつきました。消していたはずなんですが、お笑い番組が写っていたので、気にするのをやめて少し息抜きすることにしました。


 ちょっとテレビの事情には詳しくないのでなんの番組だったかは分からないんですが、芸人が出てきて漫才をしていました。特になんとも思わなかったんですが、映っているコントのオチがついたところで笑い声が入ったんです。てっきり会場のマイクが観客の声を拾ったのかと思ったんですが、なんだか違和感があると思ったら、聞き慣れた叔母の声だと気がついたんです。


 ああ、あんなところで相続争いを見るくらいならここでテレビを見ていた方が良いんだろうなって思いました。ただそれだけの話なんですけどね、ただ叔母はコメディが大好きだったのか、時折テレビの電源が勝手に付いているんですよ。私はそんなに興味が無いんですけどね。


 困ったことに笑い声も未だに聞こえるんですよ。買ってきたテレビだったら間違いなく処分しているんですが、一応は叔母の形見ですからね……処分もできずコンセントから引っこ抜いてオブジェになっているんです。それでも時々笑い声が聞こえるのは何故か分かりません。


 オチらしいオチもないんですが、未だに相続で揉めているので、早く和解して叔母が私の部屋から行くべき場所へ行って欲しいと願っています。このままだと私の部屋が一番居心地が良いことになっちゃいますからね。


 そう言って彼女は力なく笑った。最後に『今ではお笑い番組を見るときに暇だったらその時だけテレビをつけて叔母が勝手に見ることができるように放置しています。笑い声は未だに聞こえますが実害が無いので争いが終わるまでは居てもらってもいいかなって、今ではそう思っています』と言った。


 そろそろ争いにも決着は付きそうだが、それが叔母との別れになるかもしれないと思うと一抹の寂しさを覚えるそうだ。

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