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日本怪奇譚集  作者: にとろ


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光りの空

 それはお盆が繁忙期に入るため、七月に有休を取って実家に帰ったOさんの話だ。


 まだまだ新人と呼んで構わない時代、Oさんは有休消化のために繁忙期じゃない今のうちにとってくれと言われ、お盆より一月ほど前に帰省することにした。


 その時に不思議な体験をしたので話しておきたいと言うことだ。


「有休があるだけ幸せとか言われたことはあるんですがね、できれば繁忙期にとりたかったですよ、楽がしたいとかじゃなくてね……ほら、八月には大きなイベントがあるじゃないですか。オタクとしてはアレに参加したかったんですけどね」


 ああ即売会のことか。知ってはいるが、今の話とは関係無いだろう。


「おっと失礼、そういうことは関係無いですね。私も祖父母はもう鬼籍に入っているんですが、二人とも『真面目にお勤めしろ』とお説教をよくされていたので、お盆に帰れなくても働いていたら文句を言うような人じゃなかったと思いますよ」


 そう言ってから本題を話してくれた。


 中古の軽で実家へ道を向かっていたんです。公共交通機関なんて無い場所に実家がありましてね、一応近くの停留所はありますが、そこから実家までは何も通っていないですし、タクシーを使えば結構な値段を取られますから、車は持っていたのでそれで行くことにしたんです。首都圏だったらそんなもの使わなくて済むんでしょうけど、それなりの田舎ってことです。


 少しでも長く休みたかったので有休前日の仕事が終わったら定時ダッシュをして即座に車を走らせました。荷物は前日に準備していたのであとは車を走らせるだけです。


 そうして隣県まで車で走って行ったんですが、何しろ西の剣のに西端とその隣の県の東端ですからね、実質二県またいでいるようなものです。当然ですけどそれなりの時間がかかりましたよ。分かっていたので定時ダッシュしたんですがね。


 ただ、田舎特有の街灯さえロクに無い道路だったので真っ暗な中をヘッドライトの明かりだけを頼りに進んで行ったんです。せめてもの救いはハイビームにしておいても対向車が来ないので切り替える必要がないことくらいでしょうか。


 そうして進んで行ったんですが、真っ暗な上、道を進んでいる途中で猪や狸を危ないところでかわしたりしていましたよ。田舎だからってこんなにたくさん遭うとは思いませんでした。


 危なげながらもなんとか実家には着いたんです。両親はまともな就職をした私みたいな人間を歓迎してくれましたよ。継ぐような実家でもないのでそれは話がついていましたしね。


 そうして帰ったとことで言われたんです。


「よう帰ったな、都会でも星空は見えるんか? ここらも不便じゃけど悪い場所じゃなかろう?」


 そう言われて違和感の正体に気がついたんです。外に出てみると、明かりの漏れている家がほぼ無いので、空には一面の星が広がって月が煌々と光っていました。天気が変わったとかそういうわけでは決してありません。何故か突然光りの溢れる空になったんです。


「ただそれだけの話なんですけどね、怖くなくて済みません。ただ、どうしても説明がつかないんですよね。私は一体どこを走っていたんでしょうか? 考えすぎかもしれませんが、どこか入っては行けない場所に入りそうだったのかと思うとゾッとします」


「お話ありがとうございました。十分貴重なお話でしたよ」


 私がそう言うとOさんは私の謝礼を受け取って別れた。彼が何を見たのかは分からない、ただ説明のつかないことであろうkとおだけは確かだった。

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