アレルギーの原因
Mさんは以前田舎に住んでいたそうだが、その頃は酷いアレルギー体質だったらしい。アレルギーと言ってもスギ花粉のようなよくあるものではなく、動物全般に酷いアレルギーを持っていたそうだ。おかげで彼女の実家ではペットの一匹も飼うことができなかった。
「実家にいた頃は本当に酷かったですよ、猫や犬とすれ違う度にくしゃみと涙が止まらなくなっていましたから」
しかし何より彼女にとって辛かったのは、彼女が動物を好きだったことだ。ペットを飼いたいと何度も思ったが、両親に『お前によくないからダメだ』とハッキリ断られるばかりだった。無理もないだろう、彼女のアレルギーは命に関わらなかったが、まともな生活に支障を来すほどだったのだから。
「大変でしたね。しかしこのあたりも時々ペットを散歩させている人は居るでしょう? そう言ったときはどうなさっているんですか?」
都市部だから動物が居ないわけではない。彼女は大抵の動物へアレルギーを持っていたそうなので、減ったかもしれないが動物と出会わない生活というのは辛いだろう。
「実は……大学に進学してから一人暮らしを始めてアレルギーが消えたんですよ」
おかしいな? アレルギーとは住む地域で変わるものだろうか? 動物との接触は減るかもしれないが、一度アレルギー体質になったものが変わるとも思えない。
「大学に進学してから治療を始めたということでしょうか?」
となると治療をしたとしか思えない。そんな効果的な治療があるのかは不明だが、治す方法があるのかもしれない。
しかし彼女は首を振った。
「いえ、実家を出たときからずっと平気になったんです。なんの治療も受けていません。ただ、アレルギーの原因らしいものは最近になって両親も引っ越してから分かったそうです。あまり気分の良いものではないかもしれませんが構いませんか?」
「もちろんです、怪談は後味の悪いものも多いですから」
そう答えたものの、彼女は少し躊躇っていた。そんな時間がいくらか経って、彼女は口を開いた。
「実家は山の麓にあったんです。ただ、そこが公共事業で工事をすることになって両親は家を売ってもう少し便の良い場所に引っ越したんです。それから少しして、工事現場がちょっとした騒ぎになったそうです」
「騒ぎですか……何か出土でもしましたか?」
工事で何かが出てきて問題になることは割とある。良いか悪いかはさておき、何かが出ることは珍しくない。
「骨が大量に出てきたそうなんです。いえ、もちろん人間の骨ではないですよ。動物の骨です。でもそれが尋常ではない量だったそうで、調べることになったそうです。その結果、地元の人がむかしそこを家畜なんかが死んだときに捨てる場所にしていたことが分かったんです。今の世代ではほとんど知られてすらいないことなので誰かが逮捕されたとかそう言うことはないんですが……ただどうしても私はその動物たちがアレルギーの原因だったような気がしてならないんですよ。現に地元を離れると治りましたしね。関係あると思いますか?」
私は正直に答える。
「関係あるかどうかは分かりません。ただ、こう言ってはなんですが、問題になるほど骨が出てきたのにアレルギーだけで済んだのは幸いかもしれませんね」
そう答えると彼女は寂しそうに笑った。
「そうですね、動物も私に恩情をかけてくれたのかもしれませんね」
彼女はそれだけ言って席を立った。私が録音したものの概要を書き留めていると、彼女が窓の外を通っていった。その時に犬の散歩をしている婦人とすれ違っていたが、彼女は顔色一つ変えずに歩いていた。