RPGの名前
「お聞きしたいのですが、RPGを遊んだことはありますか?」
木之本さんはそんな問いかけから自身の体験を語り始めた。私も最新のものにはついていけていないが、子供時代は娯楽が少なく、当然のようにゲーム機で遊んでいたので頷いた。
「ありますよ、昔は友達の間で流行ったものとかもありましたね」
私の言葉に少しだけ顔が引きつったような気がした。何か失言だっただろうか?
「一つお聞きしたいのですが、昔のゲームってデフォルト名が無かったものが多かったじゃないですか?」
「ええ、そうですね、攻略本なんかにもなんとか名前を統一しようとした痕跡とかもありましたね」
彼は重い顔をして本題に入った。
実はですね、RPGってデフォルト名が無いときに私は友人の名前を入れていたんですよ。子供の頃の大作RPGなんて主人公どころか仲間までデフォルト名が無かったですからね、仲間を加える度にクラスメイトの名前を付けていったんですよ。ただ、最終的には名前が尽きそうになったので、ロクに話しもしたことが無いようなクラスメイトの名前まで拝借していたんです。どうせ自分だけしかプレイしないからいいだろって思ったんですよ。ほら、昔のゲームとか、中古だと売った人のセーブデータが残っていて、それが持ち主の名前みたいなものだったりしたことがありませんか?
「それは確かに数回はありました」
中古ゲームでカセットにセーブをしていた時代の話になってしまう。ゲームソフトとセーブデータの記憶デバイスが別になってからはそう言ったことは起きなくなったが、昔のおおらかな時代には割とあることだ。
この前実家に帰ったんですよ。そうしたら両親が『あんたの子供部屋をいつまでもあのままにしておく訳にもいかないからせめて大事なものは持って帰りなさい』と帰省したときに言われたんですよ。
だからゲームソフトは一通り雑にカバンに詰めて持って帰ったんです。思い出とかもありますし、今でも昔のゲームを遊べる互換機なんかも持っていましたからね。それで、せっかく持ち帰ったので久しぶりに思い出の作品をプレイしようと思ってカセットを刺して起動したんです。
驚くかもしれませんがセーブデータがそのまま残っていたんですよ。データが消えやすいことで有名だったんですが、セーブ用の電池も生きていて、データの破損も無かったんです。だから思い出に浸るつもりでセーブデータをロードしたんです。
ため息を一つ吐いて彼は言う。
そのゲームはクリアまで遊んだんですが、当時は効率的な攻略方法なんてネットも無かったので知りませんからレベルを上げてゴリ押しでボスを倒していたんです。それでラスボスも余裕で倒せるようなレベルになっていたんですけど、何故かデータをロードしたら自分以外の仲間のHPが減っているキャラや、棺桶に入って蘇生待ちの仲間が居たんですよ。子供の頃の記憶なので曖昧なのかなと思ったんですが、昔はレベル上げでお金もそれなりにもっていたので蘇生ができる教会で、キャラを蘇生させずにセーブするのが何故か不思議だったんですよ。
その時はパーティの一覧を見て懐かしんで終わったんです。それで、話は少し飛ぶのですが、一月くらい後に同窓会があったんですよ。小学校の同窓会でした。
その同窓会が問題でして、私も若くはないんですが、まだ命に関わるような大病をする年齢じゃなかったんですよ。ただ、その同窓会に行くと数人が来ていなかったんですよ。それで幾人かにアイツらは忙しかったりするのか? って聞いたんです。そうしたら『NとKは死んだよ。事故だったそうだ。あとAは病気で入院してるな、不摂生が祟ったんだろ』とあっさり言われたんです。
話を聞いて何かと繋がりそうな気がして、居なくなった奴らをスマホでメモして帰ったんです。そこでふと気がついたんですよ、全員RPGのパーティに入っていた名前だったんです。
震えながらゲームを起動してスマホのメモとキャラのステータスを比べてみると、棺桶状態のキャラの名前が死んだ同級生と一致したんです。瀕死状態のキャラは入院しているやつと同じ名前でした。ゾクッとしてすぐにゲーム機の電源を切ったんです、不気味さがありましたからね。
「これが話の顛末なのですが、これは偶然で片付けて良いんでしょうか? 不気味極まりないと思うのですが、もう一度ゲームを確認しようとしたらセーブデータが破損しているとおどろおどろしい音が鳴りました。だからもう確かめようが無いのですが……できれば偶然だと思いたいですね。それ以来ゲームをやるのが怖くなってプレイしていないんですよ」
木之本さんはそう語って、今でもテレビにゲームのCMが流れるとドキリとするのだと言い、話を終えた。