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月命日の食事

 Yさんは夫と毎日朝食を食べていた。そんな夫が亡くなったのは突然の出来事で、交通事故だった。


 しばしの間泣いて暮らしたそうなのだが、現在ではそれが悩みに変わっているそうで、私に聞いて欲しいという。カウンセリングなことは出来ないと言ったのだが、どちらかと言えば心霊的なもののような気がするというので辛いだろうが話を聞くことにした。


「夫の月命日のことなんですが、奇妙なことがあるんです」


 前置きをしてから彼女は話を始めた。


 夫がいなくなってしばらくはロクに食事もとらなかったんですけど、その日は朝食に……朝食と呼べるかは分かりませんが、コーヒーに砂糖とミルクを入れて飲んだんですよ。それが何故か妙に美味しかったんです。そこで思いだしたんですが、夫は朝食にコーヒーを淹れてくれるときはハンドドリップで淹れてくれていたんです。だからきっとそれは夫のおかげなんだと思いました。


 少し美味しいコーヒーを飲むと元気が少し出たので出社したんです。久しぶりに生きていることに感謝しました。それから帰るときに夫の好きだったチョコレート菓子を買って帰って遺影の前に置いておいたんですよ。次の日になると箱が開いて中身は空っぽになっていました。だからきっと夫は見守ってくれているんだと思い心強かったんです。


 それから毎月、夫の好物を遺影の前に供えていると次の日にはなくなっている生活を続けたんです。一年もすると流石に私も立ち直ってきたんですよ。確かに引きずっては居るんですが、少しずつ前に進んでいるような気がしたんです。


 ある日職場で同僚の男性がお昼に誘ってくれたんです。なんと声をかけて良かったのか分からなかったけれど、元気づけたいということでした。私も下心みたいなものは感じたんですが、いつまでも過去を引きずるわけにも行かないと思いお誘いに乗ったんですよ。


 それでオフィスの近くにあるカフェで軽いお昼ご飯を食べることになりました。コーヒーとサンドイッチを買ってテーブルについたんです。そうして二人で食事をしたんですけど……二人とも一口目からずっと無言になりました。とにかく美味しくないんです、その店舗がどうこうって話じゃないんですよ。チェーン店なのだからそんなに極端に美味しくない店があるはずがないんです。現に他のところで同じチェーンに入りましたがそちらはきちんとした味でした。それに他の人たちは美味しそうに軽食を食べているんです。コーヒーなんて機械で淹れているのにどうしてこんなに不味くなるの買って味がするんです。


 結局、それで気まずくなって、なんとか食事を無理矢理口に詰め込んで飲み込んだんです。向こうはここによく来ているらしく、不思議そうにしながら食べていました。


 その方とは縁が無かったなと思ったんですが、問題は帰宅した後で、カレンダーに印がしてあったんです。あの人の月命日でした。あまりそんな考えを持ちたくはないんですが……やはり怒らせてしまったんでしょうか? それからずっと月命日には食事が美味しくなくなるようになったんです。コンビニで陳列されたばかりのおにぎりを買っても何故か変な味が混ざるんです。


 昔の夫はそんなに嫉妬深い人ではなかったんですけど……死んでしまうと人格が変わるんでしょうか? 私はお祓いを受けた方が良いんでしょうか?


 私は結局、その答えを出せなかった。ただ、その話を聞いてからしばらくして、私も書き留めたその話を忘れかかっていた頃にYさんからメールが一通届いた。


『三回忌をしたらおかしな事は起きなくなりました』


 とだけ書かれていた。一応解決したようなのでこうして書き記して後悔しても問題無いだろうと判断した次第だ。

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