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日本怪奇譚集  作者: にとろ


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チキンレースの後日談

 Gさんは以前、絵に描いたような不良だったという。過去形なのは、今ではすっかり足を洗ったからだ。Gさんが不良グループから抜けた理由がオカルトじみているとのことでお話を聞くことにした。


「未だに説明がつかないんですよね……あまり良い後味はないのですが、構いませんか?」


 私はもちろんとばかりに頷く。


「ええ、怪談なんてハッピーエンドになる方が珍しいまでありますし、そういったものでも歓迎しますよ」


 そう答えるとGさんも名前は伏せて欲しいとの約束で話し始めてくれた。


 アレは幽霊だったとは言いきれないんですけどね……少なくともあの場にいた全員がこの世のものではなかったと認めていますよ。


 話は……そうですね、三ない運動の時代とでも言えば分かりやすいでしょうか。つまりバイクの評判がすこぶる悪かった時代の話です。あ、スーパーカブは別ですよ、アレは庶民の足として許されていたみたいですから。


 それで、ある日なんですけど、俺らのグループが茶店でつるんでいたら仲の悪かったWが話しかけてきたんですよ。


 『お前ら面を貸せ、チキンレースやるぞ』


 皆ポカンとしていたと思います。そんな危なっかしいことをやるグループではなかったですからね。でもバイクは持っていました。もちろん免許もありますよ、中型ではありましたがね。


 ただ、Wの提案があまりにも突然だったので全員ポカンとしてしまったんです。それから険悪な雰囲気になったんですが、このままでは出禁になるのでWとは路地裏で話しました。喧嘩がしたいなら乗ってやるんですがね、アイツは数でビビるようなやつじゃなかったはずなのに、妙にチキンレースにこだわってましたね。


「あ、チキンレースの説明は要りますか? 崖や段差に向かって走り、先にブレーキをかけた方が負けってやつです。死ぬよりマシなので大体のやつはそうそうにブレーキをかけますけどね」


 そう言ってルールを説明してから再び彼は話し出した。


「色々考えましたけど、引き受けることにしました。アイツは組織のヘッドなのでここで折っておけば向こうが壊滅しそうだって言うのもありますし、タイマンヤったら簡単に負けるようなやつじゃないですから」


 話が決まったのでさっさと近くの川岸へ向かった。河川敷はそれなりの距離があり、加速も減速も十分な余裕があった。大抵チキンレースというのはどちらかがブレーキをかけるんで大丈夫のはずだったんです。つまり別に上手に乗れる必要はないので俺が相手に選ばれたんですよ。身も蓋もなく言えば俺は鉄砲玉ですね。


 勝負は一回きり、河川敷を走るだけなのでさっさと勝負をして、負けた方がここを去るという条件でした。手っ取り早く相手の組織を潰せると俺以外は喜んでましたよ。


 それで大型バイクが二台並んで勝負となったんです。あ、無免許の件ですか? 普通免許しか取れなかったのでその手合いから調達した大型を走らせていたんですよ。もちろん違反なんですけどね。当時は暴走族なんて珍しくなかったのでもっと重大な事件がよく起きるものだからこんな小規模な争いに介入するほど警察も暇じゃなかったんですよ。


 無事と言うべきか……邪魔されることもなくチキンレースは始まったんですけど、結果から言えば俺の方が先にブレーキをかけました。いや、正確に言うとWのやつはブレーキをかけなかったんです。始めからスロットルを全開にして川に向かって一直線に突っ込んだんです。ブレーキ痕すら見えなかったので怖くなって全員逃げました。


 問題にならないはずはないんですけどね、翌日家に電話がかかってきたんですよ。もちろん警察でした。ただ、そこで引っかかったのは何故か『暴行』の容疑があると言われたんですよ。自殺幇助ならまだギリギリ分かるんですが、向こうからチキンレースを仕掛けて自分で川に突っ込んだんですよ? そんなことの責任は負いたくないっていうのが本音でした。


 とはいえ、警察を無視出来るほど当時にせよ日本は荒廃しているわけではないんですが、当時でも警察からは逃げる程度には恐れていましたよ。


 そうして警察に行ったチキンレース一行ですが、何故か妙なことを警察に聞かれた。ただのアリバイの有無だったのだが、何故か一週間前からずっと聞かれたんです。


 取り調べでその日は何もしていないって言ったんですが、警察がWの遺体の写真を出してきて、『これでも心当たりがないのか』と言ってきたんです。ただ……その写真に写っていたのは腐敗ガスが身体に詰まった状態の遺体でした。思わず吐きそうになるのをこらえて、それはなんですか? と素直に訊いたんです。そうしたら『お前らが先週殺したんだろうが!』と怒鳴られたんです。もう訳がわからないのでチキンレースの話を全部話してしまいました。殺人事件の容疑なんてかけられたら堪ったもんじゃないですよ。


 それからしばらく警察の取り調べはあったんですが、遺体の死亡推定時刻から全員のアリバイが照明されたのでなんとか解放されました。


 最後にGさんは付け加えた。


「悪いことはやるもんじゃないですね。アレから高認を取って進学しましたよ。アイツは死んでも俺たちに迷惑をかけたかったんですかね? そこまで恨まれる覚えは無いんですよね」


 私は暴走族自体が褒められたことではないのかと聞くと『そりゃそうですが、こっちも向こうも小競り合いは何でもやってて、それでも死ぬようなことはなかったんですよ? 命を賭けて迷惑をかけられたら堪ったもんじゃないでしょう?』


 結局今でもWさんが何故死んだのかは教えてもらえなかったそうだ。

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