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日本怪奇譚集  作者: にとろ


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白蛇の御利益

「あっ! こっちです!」


 Mさんはそう言いながら私を呼んだ。少しだけ高級な店なのだが、彼女が話を聞いて欲しいし、代金は持つといわれこの店にしたのだが、それにしても奢りとは気後れしてしまう。何しろこちらは本来謝礼を渡す身なのだ、こんなところを奢ってもらう理由など皆無だった。


「どうも、本日はありがとうございます」


 私がお礼から述べると、まだ年若い彼女はお辞儀をして言う。


「お気になさらず、こちらもいろいろありますから」


 そして早速だが話を聞いた。


 それは去年の話だそうだ。彼女の実家は田舎にあるのだが、そこでは虫やそれを食べる物が多く出没する程度には自然豊かな場所だった、もちろんそんな所に気持ちよく住めるはずがない、虫が快適な場所が人間にとって快適とは言えないからだ。


 虫が出る度に大騒ぎしていたそうで、その日は燻蒸で家をまるごと除虫することになったときには喜んだらしい。


 薬剤に火を付けて煙が吹き出したのでみんなで家を出て外食をし、薬剤が全部行き渡ったところで帰宅をした。匂いが多少したものの、その晩は虫に悩まされることも無く快適に眠った。その中で夢を見た。


 その夢には真っ白な蛇が出てきて人の言葉を喋っていた。その蛇が言うところによると『自分はこの家の床下にいる、お礼はするのでどうか出られるようにしてくれないだろうか、煙のせいで動けない』という意味のことを言っていた。


 彼女はその夢から覚めると真夜中で、何故か疑うこともせず、こっそり家を出て縁側の下を覗いた。なんとなくそこに蛇が居たような気がしたからだ。


 その通りに蛇は居て、動けなくなっていたが、虫でさえ触れない彼女にしては珍しく、蛇を素手で掴んで床下から引っ張り出して近くの茂みに置いた。蛇はノロノロとした動きで這いずっていき、時期に見えなくなった。それから気がつけば自分は布団で寝ていた。寝間着が埃っぽかったのがアレが夢でないことを物語っていた。


 なんとなく気持ち悪いことをしたかなと思いながら、そのまま生活をした。その夏、宝くじ売り場のあるスーパーに寄ったのだが、そこでたまたま二千円札がお釣りとして出てきた。使い勝手の悪い紙幣なのでどうしたものかと思いながら店舗を出ると、宝くじ売り場が目に付いた。そこで確か宝くじは一枚二百円だったなと思い、二千円札を出して宝くじを連番で十枚買った。


「それでまあ、当たっちゃったわけですね。ああ、金額は伏せておいてください、いろいろ面倒ですから」


 私は頷いて、それは偶然だと思っているのかと訊いた。


「いえ、そうは思っていませんよ。実はそれからしばらくして夢を見たんです。その夢の中にはまた真っ白な蛇が出てきました、その蛇は『悪い蛇はそんなに居ないので神の使いを安易に駆除したりしないように蛇の良さを伝えて欲しい』って言われたんです。それで、知人から怪談を広めている人がいると聞いたので『ああ、この事なのかな?』と思ってお話しすることにしたんです」


 そう言って話を終えた。今では彼女も虫や爬虫類が出ても安易に殺したりはしないようになったそうだ。そして、『蛇って気持ち悪いってイメージが大きいですけど縁起も良いんですよ、あ、これはしっかり書いておいてくださいね』と最後に念を押されたのだった。

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