実家の怪
奈美恵さんは子供の頃、祖父母の家に泊まっていた。祖父母と別居しているからというのが理由だったが、彼女は祖父母ではなく、祖父母の家が溜まらなく嫌だった。
しかし祖父母には大層かわいがってもらっていたので、そこが不気味だからと断ることができなかった。親は何も感じていないらしく、そこに泊まっても平然としていた。
彼女は一泊二日だからと、正月の宿泊イベントを我慢していた。その家には開かずの間があり、以前たまたま覗いた時にその部屋に女が正座で座っていたのを見てしまった。それ以来泊まる度に夢枕にその女が立っている、不気味だし害は無いのだが、その女が憎しみに満ちた目でこちらを見てくるのでなんとも言えない居心地の悪さを感じていた。
「まあそれでも泊まったんですけどね。一日だけ我慢すればいいので、私が黙っていればいいやくらいに考えてました」
しかしある日、その女が彼女の首に手を絡め付けてきた。幽霊なので身体に触れることは出来ないと思っていたのが甘かった。その女は直接彼女に触れてきたのだ。
その女が何を考えていたのかは分からなかったが、幽霊が首を絞めることには失敗した。彼女の首を絞めようとした手はグズグズに崩れ落ちて力を入れようとしているのは感じられたが、その力に手の方が耐えられなかったようだ。
翌日、いい加減あの女も諦めたら良いのにと思いながら朝食を食べに向かった。そこで祖父母が酷く驚いた顔でこちらを見てきた。
「あんた、あの部屋に入ったの?」
あの部屋という言葉だけでどの部屋か大体想像がついた。やはりあの部屋に入るべきではなかったのだ。
「う……うん」
恐る恐るそう答えると、祖父母は酷く悲しそうな顔をして言った。
「ごめんな奈美恵ちゃん、もうウチにはこんでええからお祓いを受けんさい」
突然の言葉に混乱していると、祖母はその部屋の由来を話してくれた。
「本当は子供に話すような事じゃないんやけどね、ちゃんと説明しなかったのが良くなかったね……あの部屋はね、昔座敷牢として使っとったんよ」
座敷牢、その言葉が具体的にどのようなものを指すのかは分からなかったが、なんとなく言葉の響きでどういったものか予想はついた。当時はどういった者が入るかは分からなかったが良いものではないことくらいは予想が付いた。
それから座敷牢には疫病が流行った時に隔離するのにも使われていたらしいと言われ、その時に入れられていた女の一人が未だにそれを恨んで出てくるのだという。
結局、彼女はお祓いを受けてスッキリとした。まさに何か憑き物が落ちたような快感だった。
それ以降、祖父母は奈美恵さんの家に泊まりに来るようになったらしい。それほど関係が悪化していたわけでもないし、実家は遠かったので向こうから来てくれると言うことでそれなりに歓迎された。
そうして奈美恵さんが大学生の頃に祖父母は亡くなった。その時の遺言状に、家と土地はきちんと処分して、そのお金はみんなで平等に分けること。と書かれていたが、彼女の叔父は強めに主張してその家を自分の家として相続してしまった。もともと関係の良くない叔父だったが、その家があまり良くないものだと言っても誰の話も聞かなかった。
それ以来、その家には近づいていないそうだが、叔父が健康診断でレントゲン写真に影が映っていたそうだ。それが家と関係しているのかは不明らしい。