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地蔵の説教

 真田さんは子供の頃、やんちゃな子供……というよりもガキと言った方が正しいのかもしれない。とにかくあまりお行儀の良くない子供だった。


 彼は徒党を組むわけでもなく、一人で遊びほうけていた。学校に行く振りをして遊び歩くような真似も平気でしていたそうだ。補導されなかったのか聞くと、『あんなもん危険な場所に行かなきゃええんや』と言われてしまった。彼によると補導される場所と言えば大抵治安の悪い場所なので、普通に人目の少ないところなどは遊んでいても何も言われないそうだ。


 そんなことを続けていたのだが、ある日、いつも授業をサボって携帯ゲーム機で遊んでいる町外れの廃屋の入り口に地蔵が置いてあった。何故地蔵があるのか? そんなことを少し考えたが、小さめだったのでそれを持ち上げて明後日の方向に投げた。


 ゴトンと石の重い音がしてそれは庭の上に落ちた。気にすることもなく、彼は普通に廃屋に入ってゲームをプレイした。少しプレイすると催してきたので庭に放尿をすることにした。誰も見ていないからといって、廃屋の中で用を足すと、上下水道の流れていないここではトイレが臭くなる一方だ。だから行儀が悪いのだが、建物の外で用を足していた。


 縁側の窓を開け、靴で庭に降りて小便をする。その時下を見ると、自分がここにはいる時に投げた地蔵相手に小便を書けていることに気がついた。『ここに投げたっけ?』とは思ったが、とにかくなんとなく気分が悪くなったので用を足し終えたら廃屋をあとにした。


 あの場所に特別な意味があったのかは不明だが、なんとなくそれがあってから遊び歩く気にもならず、学校に真面目に通ってそのままそれなりの成績で卒業した。高校もまともなところには入れたので安心して勉強をできた。幸いそのおかげでそれなりの大学にも合格した。両親も大喜びでお祝いに寿司屋に連れて行かれたことを覚えているそうだ。


 そして大学に入ったわけだが、大学生にもなると免許を取ると何かと便利だ。彼も多くの人に倣って、春休みの間に免許を取ることになる。なかなかつらい教習所だったが、何とか卒検に合格し、はれて彼は車を運転出来るようになった。


 彼の家はそれなりの素封家だったので彼にそこそこの値が張る会社を買い与えた。それは彼が東京に出ず、地元の名門大学を選ぶ条件に提示していたものだ。上手く免許と車を手に入れた彼はご多分に漏れず無茶な走りをした。


 峠を攻めたリなどしていたらしいが、それはある非突然起きる。


 峠までの道を走っている時、バンパーに何か重いものが当たった音がした。人はいなかった、誰かを轢いたわけではない。そう自分に言い聞かせながら彼は車を降りて何を引いてしまったのか確認した。


 そこに落ちていたのは地蔵だった。その途端に素行の悪かった頃に失礼なことをした地蔵と同じものだと直感で理解した。何故こんなところにあるのかは分からないが、何故か理解してしまった。


 車を見ると車体の前方に大きな破損があった。バンパーの交換だけでは済みそうにない。仕方ないので地蔵を道路の脇にどけ、車を板金屋に向けて走らせる。その前にちらりと地蔵の方を見ると、こちらを見て口角を上げ、ニヤニヤしている仏様らしからぬ顔があった。


 結局、車の方はぱっと見で分からない程度に修繕出来たものの、リセールがかなり下がるとはいわれてしまった。板金屋は何も言ってこなかったので、轢いたのが人間ではないと分かっていたのだろう。それ以来彼は真面目に生きている。


「あの地蔵が私を真人間にしたのか、ただの嫌がらせをしたのかは分かりません。ただ一つ言えるのは、地蔵だったとしても必ず優しいものが宿っているわけではない」


 彼はそうして過去のことを告白してくれた。結局、あの地蔵が何故急に現れたのかは分からないままらしい。

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