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日本怪奇譚集  作者: にとろ


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高速詠唱

 嫁姑問題というのは根が深い、Nさんの祖母と母との関係は最悪だったそうだ。ネットに触れるまではここまで醜悪な関係性を持って暮らしている人がよくいるものだと思っていたそうだ。


「知ってますか? 大抵の同居では大なり小なり問題が起きるんですよ。問題なのは私の実家はその程度が最悪だったことですね」


 彼女の実家はソレはもう酷い有様だったようだ。洗濯物のたたみ方、掃除の仕方、料理の味付けなど様々な場面で揉めていたらしい。揉めてはいたのだがNさんにそれを見せることはせず、全部が明らかになるまでは体面を保っていたらしい。


「母も結構気の強い人でしたから、言われっぱなしじゃなかったようです。だから関係が悪化したのかもしれません、とにかく骨肉の争いをしていたらしいんです。ホント、なんで離婚しなかったのか分かりませんよ。私が生まれたのでさえ奇跡なんじゃないかと思いますよ」


 そうして最悪の関係性をずっと続けていたのだが、歳というのもあり、祖母は介護施設へ入所することになった。母親はその時淡々と書類を書いていたことを覚えているという。そしてあっけなくその争いはスッパリと終わった。あっけないものだったと思ったらしい。


 それから先はあっという間だった。祖母が歳だったのも大いに関係しているだろうが、施設に入所してすぐに祖母は逝ってしまった。いざそうなるとあっけないものだった。家族は皆淡泊な反応であり、しめやかに葬儀が行われた。当時は彼女に葬儀というものがどういうものか分かっていなかったそうだが、とにかく制服を着て参加させられた。


 その葬儀もあっさりしたもので、あっという間に終わってしまった。何事もないのが驚きのスムーズっぷりで、アレだけ関係が悪かったのに死んでしまえば全部チャラになるのだろうかと思っていた。


 ただ、その葬儀は途中でざわついたことを覚えている。段取りについて父親が怒っていたことを覚えているが、何故怒っているのかは分からなかった。それが分かったのは彼女が高校生になった頃のことだ。


「ねえ、なんでおばあちゃんのお葬式であんなに揉めてたの?」


 父親がいないタイミングを見計らって聞いてみた。すると母は悪びれる様子もなく言う。


「ああ、あの時来た坊さんね、お気持ちで結構ですなんでお金の要求をしてきたから4989円だけ渡したのよ、縁起が悪い上にとんでもなく安いでしょう? だからあの坊さんは端っからやる気がなかったみたいで雑にお経を上げてさっさと終わらせると説法もせずにさっさと帰ったのよ。だから葬儀の段取りを知っている人たちからすればけしからんと怒ってたみたいだけどね、私の知った事じゃないわね」


 どうやらあの変な雰囲気はお坊さんの雑な対応によるものだったらしい。お経も半分くらい読んでさっさと切り上げたそうだ。本来はそんなもの許されるはずもないのだが、金額が金額だけにそのお坊さんの周囲の人も仕方ないという感じだったそうだ。そして葬儀は無事終わって、祖母の納骨の時に見たのだが、戒名も短いもので、とことん切り詰めたらしい。


「まあ化けて出てきたわけじゃないんだから気にしなくていいわよ。どうせ死人に口無なのよ。そんなに気をもむことでもないから勉強でもしてなさい」


 そう言って母親は彼女を部屋に行くように促した。その時仏間を通ったのだが、彼女にはなんだかうめき声のようなものが聞こえた気がするらしい。

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