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配信と追跡

 Nさんは配信に力を入れていた。勤めている会社では副業が禁止なので広告のつかない無料配信になる。私は何故そんなことをやっているのかと訊ねたところ『自己肯定感がアップするんです!』と力説されてしまった。よく分からない界隈だが自己満足のためにやる人もいると言うことなのだろう。


「しかし大変じゃないですか? 結構なお金も時間もかかるでしょう?」


 私の問いにNさんは軽く笑った。


「残業代だけは出るブラック勤めですから。お金はそれなりにありますし、寝る時間を削る価値はありますよ」


 そう断言されてしまった。睡眠時間を削ってまでやるようなことなのだろうかと思ったのだが、本人にはその時間が大切らしい。


「会社で人格否定ばかりされるんですよ、ネットの中くらいチヤホヤされてもいいと思いませんか?」


「そ、そうですね」


 なんとなくだが、彼女の中では物事の優先度が間違っているような気がしないでもないが、そうだとしたら彼女を誤らせたのは職場のせいだろうし、そこを深く掘り下げなくてもいいだろう。


「ところで怖い話を聞いて欲しいということですが……」


 私はそっと関係無いことは脇に置いて本題に入った。


「ええ、そうなんです。最近配信に毎回来るリスナーがいるんですが……どうも不気味なんですよ」


「不気味ですか?」


 配信に毎回来るならいいリスナーではないのかとも思うのだが、彼女にとってはそうでもないらしい。


「その人、私が次にすることをコメントで当てるんですよ。誰にも伝えてないセトリとか、その場の思いつきの企画まで、どうやっているのか知らないんですが、私が言う前にコメントに書き込むんですよ。ブロックするのは簡単なんですけど、その人をブロックして何か起きないかと考えると不安になるんですよね」


「身内という可能性は無いんですか? 隣の部屋とかなら内容が分かってしまったりしそうなものですが」


「多分無いと思います。防音室ではないですけど、配信の音量は絞ってますし、そもそも私の心の中だけで決めた思いつきを言い当てるんですよ? そんなの隣の部屋にいても分かりっこないんです」


 なるほど、確かに思いついたことを言い当てられるのはどこか不気味だな。それにしても何故彼女の配信に張り付いているのだろう? そこまで思い入れのある相手なのだろうか?


「そのコメントがリアルの知り合いからと言う可能性は無いんですか? まだそれなら納得はいくでしょう?」


 私はギリギリありそうな線を聞いてみた。彼女と親交が深ければ何をやりそうか分かりそうなものだ。


「ないですね、配信をしていると職場や友人に伝えたことはありませんから。そもそもなんで弱小配信者の私のところにいつもいるのか不思議なんです」


 ふーむ……それはよく分からないな。


「一つだけ可能性があるんですが、どうにも不気味で調べてないことがあるんです」


 彼女には心当たりがあるそうなのでそれを聞いてみた。


「私の部屋とかに盗聴器や盗撮カメラが仕掛けられているとしたら一応分かるんですが……できれば調べたくないんですよね」


 何故だろう? それが見つかれば安心出来るのではないか?


「やればいいんじゃないでしょうか? そのリスクがあるなら早いところ見つけておいた方がいいと思うのですが、何か出来ない理由があるんですか?」


 私がそう訊くと、彼女は沈んだ顔で言う。


「だって……何も見つからなかったら回線越しに私の思考を読んでるってことになるじゃないですか、そんな怖いことになるくらいだったら盗聴器が仕掛けられてるって思えばまだ納得はいくじゃないですか」


 そう言って彼女は席を立った。そのコメントを誰がつけていたのかは謎だが、彼女が配信を辞めないことを祈っておこう。

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