個人の入金
Eさんはお金を使いすぎて、現在クレジットカードの枠を上限まで使い込んでいた。その時に起きたことは忘れられないそうだ。
「私ですね、基本お金を使うのが好きだったんですよ。だからデパートに行って服からアクセサリまで揃えていたんだけどね、なにしろ勤め先が零細でしょ? 当然まともな方法じゃ払えないからリボ払いに手を出したのよ」
リボ払い……その言葉にいろいろと嫌なイメージが付きつつあるが、彼女はそれを使ってしまったらしい。
「一月生活費が足りないと次の一月の給料が同じだったら払えるはず無いじゃない? そんなわけでリボの残高は雪だるま式に増えていったのよ」
よくある話だ。
「良いか悪いかは別として、買いたいものを無理して買ったからね、そうなるのも止む無しって感じなんだけど、徐々に首が回らなくなってきたのよ。増える一方なんだから当然でしょう? しかも福利なんだから減るわけが無いし」
褒められたことではないにせよ、ロクに給与を出さない企業の方にも問題がありそうだがな。しかし無情にもクレカには枠の上限というのがある。彼女はあっという間に支払い上限の百万を使い切り、微々たる元金とほとんどの利子を払い続ける羽目になった。
「いろいろ考えましたよ、生活費が尽きたのでどうしたものかと思いまして。それからしばらく欲しいものも買えずストレスを溜めながら爪に火をともす生活をしていたんです」
それは人のあまりよくない記憶であり、どうすればいいのか話せるほど金融に詳しくない。なの出先を促した。
「一応その借金は解決したんです。ただその時のことがどうにも理解出来ないんですよね」
どうやらリボ払いは解決したようだ。しかし言葉のどこかに納得いっていないような気がする。
「リボ払い自体は一応まとまったお金で払ったわ。まあ問題はそんなところではなくてね……」
彼女は少し躊躇ってから俺に言う。
「あなた、幽霊って信じてるのよね?」
面食らったものの頷いた。
「でなきゃ怪談を集めたりしませんよ」
「それもそうか」
そう言って彼女は笑う。それから真面目な顔になって俺に聞く。
「知ってる? 銀行口座って保有している人が死んだらすぐに閉鎖されるのよ?」
私は突然の言葉になんと言えばいいのか分からなかった。いや、そのこと自体はよく知っているが、どうしてこんなタイミングでそんなことを話すのか?
「借金が一番多かった時代にね、水道光熱費を払って残りのお金で電話代を払おうとしたのよ……ただどうにもギリギリの生活だったから一つ決まってもらうかという際どいところだったの。だから今月の請求額をネットバンキングで確認したのよ。
そこで一息置いた。彼女は手元のコーヒーーを一気に飲んで言う。
「リボ払いの残りぴったりの金額が口座に増えていたの。そんな都合の良いことがあると思う? まあそれは大した問題じゃないわ。問題は振り込みの名義よ。母親の名前になっていたの。 もちろん実家には母も父もいないわ。そもそもリボ場払いの残高南庭分かるわけないのよ。思い当たることといえばお盆と彼岸にお墓参りをしていた事かしら。御利益と考えるのが一番説明がつくのよね……」
「それで、生活はなんとかなったんですか?」
私がそう問いかけると、彼女は微笑んで言う。
「おかげでブラック企業からも逃げ出したし、本当に感謝しているんだけどね、説明がつかないものってどうにも不気味でしょう。とはいえ、お金に善悪はないから全部使わせてもらったけどね」
「今では無事に生活出来ているんですか?」
「ええ、今じゃすっかり定時で帰れる企業に入ったからね。終電まで待つなんてまず無いわね」
と言うことは一応のハッピーエンドとしていいのだろうか? よかったのかどうかは未だに説明がつかない。