表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
203/289

昔見た両生類

 Aさんは昔、実家の近所でカッパを見たという。流石に今時カッパというのも眉唾物だとは思うのだが、本人が是非聞いて欲しいと言っていたのでお話を伺うことにした。 


「お時間ありがとうございます。俺の子供時代の話なんですが、誰も聞いてくれないのでダメかもって思ってたんですが聞いてくれるようで嬉しいですよ!」


 彼はさわやかそうな好青年だが、筋肉質な身体をしているあたりに昔からそれなりに体を動かしていたことをうかがわせる。


「それで、カッパを見たとの話ですが、どのようなことがあったのでしょうか?」


「実は……カッパかどうかはハッキリしないんですが、川で見た緑のUMAって事でカッパ扱いでいいかなと思いそう言う読んでいるだけで、実際に見たのは謎の化け物なんですよね」


 私は少し興味が湧いた。古式ゆかしいカッパ像と、新しい視点で見たカッパというものにどれほどの差があるか知りたかった。彼が見たのは果たしカッパなのか気になって仕方ない。


「なるほど、カッパの『ようなもの』を見たということでよろしいのですか?」


「そうですね、カッパとはいいきれませんが、言葉にするならカッパというのが一番適切かと思っているんです」


 そう言って彼は昔話を始めた。


 俺は昔川の側に住んでいたんですが、流石にコンクリで舗装はされていましたよ。本当に昔ながらの土の堤防ではなかったですね。だからカッパが出るには少し似合わないかなとは思うんですけどね。そこで遊んでいた時……ああ、もちろん川には深いところもあるので学校で禁止されていましたよ。それはともかくみんな川で遊んでましたね。建前と本音っていうんですかね、学校側も生徒が川で遊んでいたことは間違いなく知っていたと思いますよ。黙認ってやつだと思います。


 近所に川があると夏はついつい川で水遊びをしちゃうんですよね。クーラーはあったんですが、一家に一台でしたから、子供部屋には無かったんですよ。だから川は貴重な涼しい場所でした。家に帰ると蒸し暑くなるので、夏は日が落ちるのが遅いのを良いことに遅くまで川で遊んでましたよ。もちろん褒められたことでは無いんですがね。親も子供部屋にクーラーを置くより川で遊んでくれた方がマシと思っていたんじゃないでしょうか。


 その日は友達数人と川遊びをしていたんですが、自分だけ川の側に家があるので日没ギリギリまで川遊びが出来るんです。友人たちはそこまで家が近いわけではないので俺より早めに帰宅して、一人で遊んでいたんですよね。


 そこで日暮れになって、流石にそろそろ帰った方がいいだろうって時間に夕焼けの逆光になって子供くらいのサイズの人影が見えたんです。逆光になっていたのでハッキリとは見えなかったんですが、人間の形をした影だったので近所の子かなと思ったんです。一人で遊ぶのにも飽きてきたのでその陰に近寄ったところ異様なことに気がついたんです。


 その陰が少し光を浴びたんですが、全身緑色なんですよ。だからカッパじゃ無いかと思っているんですが、水掻きみたいなものは見えませんでした。ただ人間ではないのは確かでしょうね。ゾッとしていい時間だし見なかったことにして帰ろうとしたんですよ。そうしたらそのカッパらしきものは猛スピードで俺の方にやって来たんです。必死に逃げたんですが川原なので石で足が痛み、全力で走れなかったんです。それでも必死に逃げて、なんとか振り切ったと思ったところで腕を掴まれたんですよ。


 パニックになってブンブンと腕を振って引き剥がすと大急ぎで靴も履かずに家にダッシュしました。靴をなくしたことは親にこっぴどく叱られましたが、その時泣いたのは叱られたからではなく、無事に親の顔を見られたからなんです。


 ここからは後日談なんですが、カッパに腕を掴まれたって言ったじゃないですか? その腕をお風呂に入る時に見ると緑色の痣になっていたんです。紫とかなら分かりますよ、打ち身とかでもなりますしね。でも人の身体って緑色になったりするんでしょうか? 一週間くらいでその痣は消えたんですけど、それ以来川遊びからは手を引いて、エアコンの効いているリビングで勉強をするようにしました。あんな体験をするくらいなら勉強を頑張った方がマシだと思ったんです。


 それと、これは関係あるか分かりませんし、後味の悪い話なんですが聞きたいですか?


 私は静かに頷いた。


 そうですか、ではお話ししますけど、ずっと後の話なんですけど川の大規模な工事があったんです。治水をしっかりするためだったかな? 理由はともかく、舗装の修繕から堤防の大規模化まで様々な事をしたんですが、その中で川を掘ったりもしたんですよ。その時に白骨が出てきたそうなんです。人のものということは確かだそうですが、身元不明ということで無縁仏に祀られたそうです。


 思うんですよ、あの緑の人影は自分の存在を見つけて欲しかっただけなんじゃないかってね。でもそんな風に考えるよりカッパだと考えた方が気が楽じゃないですか? だってアレが人間の幽霊だとすると、俺は困っている人を不気味に思って逃げてしまったってことになるんですよ? だからカッパであってほしいと思うんですよね。


 それがカッパ事件の全容だそうだ。結局真実は何もかも不明なままだが、彼はそんなものを知りたくもないようなので深掘りすることは誰のためにもならないのではないかと思い、その川の史料を見ることはあえてしないことにした。真実がなんであれ、知らない方が良いこともあるのだろう。彼は今では故郷を離れ人並みの生活をしているらしいが、河川敷などには出来る限り近寄らないことにしているらしい。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ