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祖父と二輪車

 (たもつ)さんは昔、バイクに乗っていたそうなのだが、ある出来事があってからバイクを降りてしまったそうだ。怖いというか不思議な体験だというのは本人の談だが、興味深い気がしたので聞かせてもらうことにした。


「あの頃は俺も大概無茶をしてましたよ。今生きているのが不思議なくらいですね」


 さっそく無茶をしていたと言う。どうしてバイク乗りはこうも無茶をするのだろうか? 乗り物のせいなのか、そういう人が乗る乗り物なのかは分からないが、話はそう言うありがちな出だしで始まった。


「峠を攻めていたとかそんな話じゃないんですよ、今じゃそういう仲間を集めるのも一苦労ですからね。俺はバイクで速度超過で走ってたんですよ、ああ、ちょっと何キロ出してたかは伏せさせてくださいね、ちょい不穏な速度まで出していたので」


 私はそもそも速度超過がアウトではないかと思ったのだが、そこにこだわると面倒なので頷いてそのまま続きを聞くことにした。彼は私の肯定に満足したようで、その続きを話し始めた。


「地元にね、長い直線道路があるんですよ。見通しがよくて人が横切ることは滅多に無い、そういういかにも速度を出してくれと言わんばかりの道があったんです。褒められた事じゃないのは分かってるんですが、地元じゃ車もバイクもかなりのスピードで走っていますよ」


 念のため具体的な位置は伏せておくが、地図で見ても曲がっていない道路がかなりの距離をはしっていた。


「そこを春と秋に走るのが気持ちいいんですよ。もっとも、かなり秋や春も短くなったような気がしますがね。とにかく、ご多分に漏れず私もそこを飛ばしていたんですよ」


 危なっかしい趣味だとは思うが、楽しそうではある。それはともかく、割と安全そうではある。命の危険があるような道だろうか?


「そこってそんなに危ないんですか? 地図で見る限り危なそうな場所も無さそうですが……」


「ああ、そこはそんなに危ないわけじゃないんですよ。ただ俺の走り方が危なかったってだけでね」


「何かあったんですか?」


 思わずそう訊いてしまった。何も無いならそんなに事故が起きそうなところには見えないからだ。


「大型の免許取っていい気になってた時に爺さんが危ないって話がスマホに入ってね、慌ててバイクに乗って病院に急いだんだ。ただあんたもスマホで見てるから分かると思うがその辺に病院が無いんだよ。結構遠くに運ばれたらしくてな、その道を薄暗い中焦りながらかなりの速度で走ってたんだ」


 そういうのはやはり地方特有の問題だろうか、重病などに対応出来る病院が遠かったりするな。


「で、かなりのスピードを出してたんだが突然『バカモン!』って声がヘルメットの中に響いて後頭部を殴られたような衝撃が響いたんだよ。あの声、爺さんのものだろうな」


 衝撃で慌ててバイクの速度を緩めると、道の真ん中に狸の死骸が転がっていた。車なら問題無いだろうが、バイクで踏むと結構危ないところだった。


「それで法定速度で病院に行ったんですが、爺さんが逝くのには間に合いませんでしたね。ただ、バイクに時計が付いているんですが、あの声が響いたタイミングと爺さんが死んじまった時刻がほぼ一致してたんすよ。最後まで心配してくれたんすかね?」


「きっとそうなんじゃないでしょうか。しかしそこまでハッキリ霊的なものを感じられるものなんですね」


 私が感心していると、彼は少し微笑んで言う。


「爺さんの葬儀で聞いたんだけど、爺さんって昔バイクに乗ってたらしいんだ。昔って言うから少し調べたら、その頃は大型バイクが専用の免許じゃなくて二輪免許だけ持っていれば乗れる時代だったらしいんすよ。爺さんも俺が大型に乗ってたから懐かしかったのかもしれませんね」


 彼は少し寂しそうに言い、そして今ではバイクを降りたそうだが、たまにバイクで飛ばしているのを見るとまた爺さんが説教してくれないかと思ってしまうそうだ。

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