正夢
「私、見た夢が予言みたいになっているんです」
「予言……ですか」
Pさんは特別な夢を見る日があると言う。正夢のようなものだが、問題はあるらしい。
「ただの正夢なら気にもしないんですけどね……問題は決まってその夢が不吉なものなんです」
初めて見たのは曾祖父が死んじゃう夢でした。交通事故に遭う夢だったんですけど、実際は元々危なかった人だったので老衰で亡くなっただけなんですけどね。それからよく夢を見るんです。
その後は叔父さんだったかな? 夢の中で銃で撃たれて死んじゃう夢だったんですが、翌日に心臓発作で死んじゃったんです。まだ子供でしたから繋げて考えることはできませんでしたが、できれば考えない方が良かったんでしょうね。
彼女は寂しそうにそう言う。問題はもっと根深いそうだ。
「まだその頃は一人が死んじゃう夢だったから偶然と言えなくもなかったんです。でも……」
その後しばらくして修学旅行に行く前の夜でした、友達のグループが川に流される夢を見たんです。その頃は偶然では片付けられないと思っていたので、なんとかして助けようと思いました。でもダメなんです、夢の中で分かるのは死ぬってことだけで、どうやって死ぬかは分からないんです。交通事故、お風呂でヒートショック、餅を喉に詰まらせる、まあいろいろありましたが、夢と同じ死に方をした人は一人もいませんでした。
偶然と片付けたかったんですが、同級生を死なせていいものかとは悩みました。でもどうしようもないんです、修学旅行でその仲良しグループは自由行動で交通事故に遭いました。もちろん夢に出てきたのとまったく同じ子たちでした。
「一番嫌なのは自分では何にも出来ないことですね。助けられたら英雄になれるのかもしれませんが、私はいつだって傍観者以上の事はできませんでした。
「しかし、それはあなたのせいではないのでしょう? 助けられないのはそうかもしれませんが、自分で何かをしたせいではないんでしょう?」
私の慰めの言葉も彼女には届かないようだ。悲痛な声で話し始める。
「そのはずなんですけど……私が見た夢の中には元気なはずなのに突然死んじゃう人が出ることがよくあるんです。思うんですよ、もしかすると私が死の予言をしているのではなく、私が夢に見たから死んでるんじゃないかってね」
ゾクリとするような発想だった。私は『気のせいです』と誤魔化すことにした。しかしその後暗い顔をして彼女は言う。
「これは誰にも言ってないんですけどね……最近夢に出てくる人をある程度選べるようになってきたんです。嫌いな人がいたらその人が夢に出てきて……って事がよくあるんです。別に私が直接何かしたわけではないですけど……これは罪になるんでしょうか?」
「そこまで思い詰めない方がいいですよ。例えば粗暴な人だとその分危険な目に遭う確率が上がるでしょう? 夢で見たからではなく、夢に出そうな生き方をした人が出てきているんじゃないでしょうか?」
気休めと分かっていてもそう言うしかない。彼女は納得してくれたかどうかは分からないが、私が彼女の夢に出てきて欲しくはないので深入りしない方がいいなとそこで話を終わらせた。