学業と人形
人形にまつわる心霊的な話は多い。今回聞いた真栄田さんからの話もそういったものだ。
「霊が出てくるわけではないですけど、一応オカルトには入るかなって話です」
そう言ってから話を始めてくれた。
私は昔おばあちゃんにかわいがられていたんですよ。いろいろ買ってもらいましたね、一番高いのはお雛様一式だったかな? 今はまあ……いろいろあって持ってないんですが、ああ、振り袖の方が高いんでしょうか?
とにかくかわいがられて育てられたんですよ。だからおばあちゃんが好きだったんですけど、中学に上がる時にあっさりと死んじゃったんです。親戚は歳だったからと言いますけど、まだ小学生でしたから納得はできませんでした。でも、中学に上がってしばらく経つとそういうものだって分かっちゃうんですよね、悲しいことではあるんですが……
問題は中学校に上がってからですね。途端に勉強が難しくなってついていけなくなったんです。小学校まではろくに代数学なんてやらないじゃないですか? 突然具体的な数字から数式を変形しろとか言われても困るんですよね。そこからはかなり辛かったです、どうやっても公式が覚えられないんですよ。こんなのどこで使うのっていう問題が多いじゃないですか。
と、そんなこともあり、中学に入ってからの真栄田さんの勉学は辛いものになっていった。一応いじめられはしないものの、勉強ができないという事はまわりがなんとなく知っていた。どこからテストの点数が漏れたのかなんて事は知らないそうだが、学業が振るわないことは隠せなかったそうだ。
「それで、突然勉強ができるようになったんですよ。二年に上がった頃でしたね、突然理系科目の暗記ができるようになったんです。歴史なんかの年号も丸暗記出来るようになって、ある程度ついていけるようになったんです。理由はさっぱり分からないんですが、突然出来るようになって困惑していたのは覚えています。理由を知った時になんとも言えない気分にはなりましたけどね」
私は本題を聞いた。
「なるほど、オカルト要素というのはどこなんでしょうか? 頑張って勉強ができるようになっただけではないんですか?」
私の問いかけに彼女は軽く笑った。
「高校から実家を出ることになったんです。幸い成績はそこそこ上がっていたので高校は割といいところに合格しました。だから引っ越すために私の荷物を全部出したんです。その時に成績が上がった理由が分かったんです」
どこか遠い目をして彼女は本題に入る。
「ひな人形を全部出したんですよ。もうそんなもの飾る年でもないんですが、おばあちゃんとの思い出の地を離れると言うことで両親が、『懐いていたからお別れはしなさい』と言って遺品の多くを見せてくれたんです。その中でひな人形を撮りだした時に僅かに悲鳴が上がりました。私はそちらを見ると、なにか汚れのついたひな人形が見えたんです。近寄ってそのひな人形を見たところ、公式や年号なんかの学校で習う内容が墨のようなものでびっしり書かれていたんです。その時にああ、これのおかげで暗記ができたんだって分かりました。おばあちゃんも心配性ですよね、とっくにいなくなったのに私のためにそんな苦労をしてくれたんですから」
そうしてひな人形は供養をしたのだが、全てに出来る限りの項目が書かれており、それはまるで耳なし芳一のようだったと言う。
「耳なし芳一との違いは耳だけ書かれていないなんてことが無かったことですね、全身に余すこと無く書かれていましたよ、未だに全ての内容を覚えています」
今では彼女もそれなりの企業に就職したが、季節ごとのお墓参りは書かしたことが無いと言う。