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送り火ブースト

 財前さんの故郷には代わった風習があったという。それは村の中で死者が出ると弔いに火をたくというものだったが、その炎というものが尋常ではなかったそうだ。


「お盆に送り火をたくというのも知っています、昔は火葬するにしても斎場ではなかったことも知っています。問題は私の昔に住んでいた村では別にご遺体を焼くためではなく、儀式的にたき火をしていたんです。たき火なんてかわいいもんじゃないですがね、今じゃ絶対に許されないだろうなあ……遠くからでも各家が煙を出しているのが見えたし、何ならそれなりに離れていても炎が見える時さえあったもんなあ……」


 財前さんはそれなりにお歳だが、彼がまだ小さな子供だった頃はそういった行事もギリギリ許されていたらしい。彼が言うには、今やると間違いなく警察と消防と救急のセットがやってくるくらいには派手に焼いていたらしい。


「まだ小さかったからなんであんなに燃やすんだろうななんて思ってたよ、だって危ないじゃねえか。火事にならないのが不思議なくらい薪を用意している家だってあるんだぞ。下手すりゃ死人が出たのが原因で新しい死人が出たっておかしくなかったよ」


 そんな彼だが、村を出る少し前に何故底まで火をたくのに情熱を持つのか、その理由の片鱗が見えたそうだ。


「義務教育ってもんがあるだろ? だから中学までは村でも過ごせたんだがな、うちの親父とお袋は当時にしちゃあ珍しく俺を進学させたんだ。おかげで高校生活は村から出るのが確定しちまってな、それ以降のことは知らねえんだが……最後の冬に一人病気で死んじまったんだ。まあ今から見ても結構な年だったし、当時にしてみりゃ悲しいどころかよくそこまで持ったって大往生みたいな扱いだったな。でもな、それでもやっぱ死んだことは死んだんだから火をたくんだよ。うちだって親父が大きめのたき火くらいの炎を用意してたよ」


『お前は村から出たら二度と帰ってくるな、俺たちに会いたいならお前から呼べ』とその時に言われたそうだ。彼が中学生の頃なら親の跡を継げというのが珍しくない時代にその反応は珍しいなと思ってその理由を聞いたそうだが、両親ともに頑なに口を閉ざして教えてくれなかったらしい。


「その晩なんだがな……なんで最後の最後であんなもん見ちまったんだろうなあ……真夜中に目が覚めたんだわ、昔は星空がよく見えるくらい外が真っ暗だったんだが、その晩は火がたかれてたからな、少しの光が窓から漏れてきてたんだ。で、好奇心ってやつなんだろうな……覗いちまったんだ」


「そこで何かを見たんですか?」


 財前さんはコクリと頷いてその時見たものを話してくれた。


「人魂がな……村の中を飛び回ってたんだ。一つだけだったから誰のものかなんて鈍い俺にもよく分かったなあ……大往生でもやっぱり迷うものは迷っちまうんだな。で、その人魂が村の家を回るんだ。それで家に近づこうとすると焚いている炎がその人魂に伸びていって追い払うんだよ。不気味だし仕方ねえなとは思うんだが、その死んじまったやつの家族の家でも炎が燃えてるから近寄れないようでな……死んだってのに家族にまで入ってくるなとされるのは気の毒な気がしたよ。それでもまさかうちの火を消すわけにもいかんしな、しばらく見ていると空に向かって登って消えたよ」


 そこで一呼吸して彼は言う。


「何も言われなかったが村から出る時に寂しそうにされたよ。無理もないわな、死んだら村全体から厄介者扱いされるんだからな。良かったこととって言えば俺も学が手に入って何とか親父とお袋をこっちに呼べたことだな。二人ともあの村を出たかったんだろうな、大喜びで俺の建てた家に来てくれたよ。それですっかりあの村と縁は切れたな。今でもあるのかどうかさえ知りたかないね」


 そう言っては無しを締めくくった。彼の両親は亡くなっているが、きちんと現代的に荼毘に付したそうだ。なお、彼は具体的な地名を話していたのだが、それを語ると問題が出そうなので伏せて書いたことを付け加える。

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