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昔のペット

 Iさんは昔動物を飼っていたことがあるらしい。らしいというのは、どうしても詳細が思い出せないからだそうだ。


「不思議なんですけど、動物を飼っていたのは覚えているんですが、その姿が思い出せないんです」


 彼女は頭に手をあてて記憶を掘り起こそうとしているようだった。しかし、今まで幾度となく考えてもまだ答えは出ていないらしい。


 Iさんが言うところによると、昔、実家にペットがいて、その世話をしていた記憶があるらしい。ただ、いくつか不可解なことがあるそうだ。


「まず、人間の食事の食べ残しを与えることもあったんです。なにがおかしいって玉ねぎやニンニクも普通に与えていた記憶があるんです。犬ならその時点でおかしいですよね?」


 犬には毒性のある食べ物だ。じゃあ猫かと言えば、猫ならいつも同じ部屋に閉じ込めていたのはどうも奇妙に思える。部屋で飼うということもあるが、彼女が言うには記憶は薄いが部屋の中を飛び回るような生き物ではなかったそうだ。


「魚や爬虫類みたいな水槽とかで飼う生き物じゃないんですよ、そんなものが無かったのはよく覚えていますから。よく分からないのは実家の両親に聞いても昔からペットなんて飼ったことは無いと言うんですよ。私の記憶違いと言うにはどうにもハッキリしすぎている気がするんです」


 なにもハッキリとしたことは分からないらしい。しかしならば何故底までペットを飼っていたとハッキリ覚えているのだろう? 彼女はその事に疑問を抱いている様子は微塵も無い。今でこそ多様な生き物を飼っている人がいるが、彼女の子供時代となるとそれほど奇妙な動物を飼っていたはずはない。そんな珍しいものを飼っていれば近所でも知られているはずなのだが、そういった話は聞いていないという。


「別にもういなくなっているのだし、気にしなければいいというのも間違ってはいないんですけど、やはり不気味なんですよ。心にハッキリしないものが残っているとどうしてもふとした拍子に引っかかるんですよ」


「あまり気にしない方がいいのではないでしょうか? 答えの出ないことを無理して考えない方が良いかもしれませんよ」


 私の言っていることが気休めだと言うことは分かっているが、彼女の記憶だけが証拠だと言われると話として弱い。不思議な話ではあるが、とらえようによっては思い違いと言うこともできる。


「それでもおかしいんですよね……こんな事言いたくはないのですが、どうしてもあの顔が忘れられないんです」


 彼女は不快そうにしながらそう言う。


「私が実家でペットを飼っていたと言った時に両親がものすごく嫌そうな顔をしたんですよ。思い違いで済むことならあんな顔はしないと思うんです。アレは何か忌々しいものを見るような顔でした。そしてそれを聞くと必ず一刻も早く話を切り上げようとするので、私には教えたくない何かがあるんじゃないかと疑っているんです。ただ……私に教えられないペットとは一体何だったんでしょうね?」


「昔は家畜を飼っている家も多かったですし、そういった生々しい話をしたくないだけかもしれませんね」


 私の気休めも彼女には届かなかった。


「それが……実は実家で鶏を飼っていたのは覚えているんです。ただ、それがいつの間にか消えたんです。消えたことはありましたが、そのお肉が食卓に上がることは全く無かったんです。ということはそのペットが……ね」


 彼女の言いたいことはそのペットは何かを食べていたのだが、その何かが……ということだろう。そして最後に彼女は言う。


「実家がそれなりにお金持ちだったんですが、そのペットがいた頃は両親も働いている様子が無かったんですよ。だからそのペットはお金になったのかもしれません。ただ、私はそれが何か分かったとしてもお金目当てに飼おうとは思いませんがね」


 未だに彼女の飼っていたものが何だったのかは不明だが、知ったところで飼うつもりはない、ただそれと出会いたくはないことだけは確かだと彼女は言った。

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