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日本怪奇譚集  作者: にとろ


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鏡と鏡でないもの

「怖いって言うか、少し不思議だったことがあるんですよね」


 そうUさんは話し始めた。被害があったわけではないが、未だに納得も説明も出来ない現象にあったそうだ。今回はその事について話を聞いた。


「怪現象に遭ったことがあるという話ですよね?」


「ええ、一応そのはずなんですが、いまいち自分でもよく分かっていないんです」


「不思議なことということですか? そう言った話でも歓迎しますよ」


 私が水を向けると、彼女は最近起きた奇妙な現象を話してくれた。


「鏡ってあるじゃないですか、どんなものでもいいんですが、お風呂から洗面台、お化粧用から姿見まで、いろんな鏡がありますよね?」


「そうですね、大抵の家には無いと言うことは無いと思いますよ」


 鏡に関する怪談は割と多い、今回はそういった話だろうか?


「家のせいか鏡のせいかは分からないんですけど、気がついたのはスマホを見ながら洗面台で歯を磨いている時でした。お行儀が悪いというのはさておいて、それまでは背面が金属やプラスチックのスマホを使っていたんです。だから気が付かなかったんでしょう。そろそろ古くなってきたスマホを最新のやつに機種変したんです。で、最近の機種って背面がガラス製のものが普通にありますよね?」


「そうですね、金属かガラスかの二択みたいなところはあります。しかしそれがどうしたんですか?」


 私がそう訊ねると、彼女は手を何かを持つようにまっすぐ伸ばして目線の高さで止めた。


「こうやってスマホを見ていたんです。これ以上下げると口から歯磨きが垂れちゃいますから。そうなると偶然なんですけどスマホの背面が洗面台のガラスと平行になって、鏡ではないですけど合わせ鏡みたいな状態になるんです」


 言われてみればさっきのポーズで手にスマホを持っていると、前のガラスと合わせ鏡になると気づいた。合わせ鏡には割とよく霊的なものが関係していたりする。


「そこで気がついたんです、鏡には私もスマホも映っています。そこまでは分かるんですけど、鏡に映ったスマホには何故か洗面所が無人の状態で映っているんです。私が手に持って、目の高さにあるのだから合わせ鏡になるとその中に私が映るはずじゃないですか?」


「そうですね、確かに先ほどのポーズをすると自分が映るはずです」


 私は一番の疑問を口にせず話を聞いた。


「何故私が合わせ鏡に映らないのか分からないんですが、試しに手鏡で試してみたんです。そうするとそちらにはきちんと映るんです、それではと思って以前使っていたノートPCを持ってきたんです。たまたま鏡面仕上げのディスプレイだったのでそれで合わせ鏡を作ってみたんです。そうしたらやはり映らないんですよ」


 彼女は沈鬱な表情でそう言う。私はそっと伝票をとって『貴重なお話ありがとうございます』と言い席を立って会計に向かった。彼女はまだ納得のいっていない様子だが、説明のつかないことなど世の中に山ほどあるのだから、きっとこの話もその一つなのだろう。


 だから……きっと待っているところへ来た彼女の足元に影が無かったことも、彼女が席に着いた時に水が運ばれてこなかったことも偶然に違いない。きっと不思議なことは不思議なままにしておいた方がいい。そう割り切って喫茶店を出た。


 なお、現在書いているこの文は記憶の限りに書き起こしたものだ。帰宅してから録音していたスマホで喫茶店の会話を再生してみたが、私の声しか入っていなかった。特に害はないと思いたいのだが、どうにも不気味なのでその音声ファイルは消してしまい、今は存在していない。

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