おま国か
おま国と言う言葉を知っているだろうか? 平たく言えば主に海外のゲームが日本で配信されなかったり、大きく値上げされるようなことを指す。しかしそれだけなら怪談のようには見えない。Aさんはそんなおま国に対抗しようとして少しだけ怖い体験をしたそうだ。
「まず、位置情報をスマホが取っているのは知っていますよね? 改変しようと思うと少しグレーな方法が必要ですが、それほど難しいわけではないんです。なのでそれを利用して外国のゲームを安値で入手しようとしたんです」
思えばそれが間違いだったと彼は言う。
「スマホの方はPCより大変なので、まずはPCの方で接続元を誤魔化してみたんです。いくつかの販売元はそれを検知してリジェクトしましたが、運が良かったのか少しは安値で買えるところがあったんです」
そのショップはあまり多くのゲームを配信していたわけではないが、それでも有名なゲームもあったし、日本では表現がどぎついということでかなりマイルドに改変されたもののオリジナル版など、結構貴重なゲームが配信されていた。登録時に誤魔化せば以後国の変更をされるショップではなかったのでこれ幸いとAさんはゲームを買い漁った。たくさん買ったのに日本向け仕様の一、二本分くらいですんだので言い買い物をしたと思い、購入したゲームのダウンロードをするようにしてその日は寝た。
翌日のことだ、休みなので買ったゲームでがっつり遊ぼうと彼は乗り気で気分よく目が覚めた。PCを見ると大容量のゲームも全てダウンロードが終わっており、どれから始めようかと贅沢な悩みが出来たことを喜んだ。
その中に、一つのゾンビゲームが入っていた。FPSで相手がゾンビというものだ。海外では人間を相手にするとまあ色々と面倒なのでゾンビなのはその妥協の結果だと思った。早速起動させると、町中にゾンビが現れたので全て倒せというミッションから始まった。ゲームなのでこの際、何故道ばたに銃や弾薬が落ちているのかなどと言う当然のツッコミはしない。しかしそのゲームをしていて何か違和感があった。初めはそれがよく分からなかったのだが、続けていくうちにその正体に気がついた。
舞台が日本なのだ。何故海外のFPSで日本が舞台になっているのかよく分からない。そもそも銃がそんな道ばたに落ちているという違和感が舞台が日本なので非常に大きくなる。
しかしAさんは日本に対する誤解は多いし誇張した表現も多いのでそういう人が作ったゲームなのだろうと深く考えずそのゲームをクリアした。
次に遊んだのはマフィアが敵対する組織を消すというゲームだったのだが、何故かその敵対組織が日本のヤクザだった。ヤクザが抗争をしていないというわけではないが、二連続で海外製なのに日本で物騒なことをするゲームを引くという珍しい事態に困惑していた。
そのゲームはそれなりに面白かったし、満足のいくものだったのだが、この偶然がどうしても奇妙に思えてしまい、Aさんは二つ目をクリアした時点でゲームを止めた。
そしてその日は寝たのだが、翌日会社に行く途中で気がついた。なぜあのゲームの舞台が日本だと早めに気付けたのか? 日本語の看板などが出ていたわけでもないはずなのにそれが分かったのは、舞台が彼の家の近所だったからだ。通勤途中にゲームの舞台と同じ光景が広がっているのに気付き、何故プレイ中に気がつかなかったのかと驚きながら出社した。
そして家に帰り次第ダウンロードしたゲームを削除し、ストアアプリもPCから消した。
彼は『なんとなく気分が悪いものでしたね』と言っていた。彼の怪談はそれだけだったのだが、なんとなく引っかかるものを感じた私は帰る前にその町の図書館に寄って新聞のバックナンバーをいくらか見た。するとAさんが勤めている会社で社員が暴行をして逮捕されたという記事が載っていた。死者が出たわけでもないので小さな記事だったが、この記事が載った日と、彼がゲームをダウンロードしたといっていた時期が近いことは判明した。
何故彼がこの事は黙っていたのかは分からない。ただ、彼ももしかしたら責任の一端を感じているのかもしれない。この不気味な符号に意味を感じずにはいられなかった。