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日本怪奇譚集  作者: にとろ


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猿を見た

 Lさんの実家近くには猿のいる山があるらしい。今となってはみることが滅多に無くなったものの、猿自体は数十年前によく見られていたそうだ。そして今でも探せばいるのではないかと言われている。


 ただ、問題はそんなことではなく、時折金色の毛をふさふささせた太った猿が現れるらしい。そしてそれは吉兆であり、見たものにお金をもたらすのだそうだ。


「と、まあそんな話がまことしやかに言われているわけですが、本当のところ見ない方がいいものだと思いますよ」


 Lさんは少し寂しそうな顔をして言う。それから『確かにお金は入るんですよね……』と呟いた。


「もしかしてその猿を見たんですか?」


 私が思わずそう訊ねると、彼は重々しく頷いた。それから、その嫌な思い出について語り出した。


「去年実家に帰った時にその辺を散歩していたんです。元々山間の町ですからそんなに栄えていたわけではないんですが、見事なシャッター商店街になっていました。私がまだ子供だった頃もそこそこ閉めているところはありましたが、それでもほとんどが閉まってしまうと悲しいものですね」


 そして散策をしているうちに山の麓を回る道を通っていたという。


「意識してそこを通ったわけではないんですが、気がついたらその道を歩いていました。昔の通学路だったからかもしれませんし、もしかしたらあの猿のようなものに導かれたのかもしれません、ただ……」


 そこで一つ言葉に詰まってからその先を話してくれた。


「金属をひっかくような鳴き声が聞こえたんです。そこで思わずそちらを見ると、体毛が金色をした猿が山の少し上のところからこちらを見ていたんです。私は猿の顔など詳しくないのですが……なんていうか、非常に不快感を覚える笑みというのでしょうか、金持ちが下卑た笑いを上げているような表情に見えました。実際のところはどうなのか分かりません。ただ、私はその時幸運の象徴を見てしまったわけです」


 『見てしまった』という言葉に引っかかったが、そのまま話を続けてもらった。


「その時は一応幸運の象徴のはずなんですが、その猿からは不快感しか覚えなかったんです。心の底を見通されているような、気分の悪い笑みが心の底に焦げ付いたようでした」


「では幸運はなかったと?」


「お金という地味では手に入りましたよ。ただ、あんな形で手に入れたくはなかったですけど」


 彼はあの猿を見てなんだか散歩をしているのが嫌になり散歩を切り上げ自宅に帰ったそうだ。扉を開けた途端、なんだか焦げ臭いというか、独特の匂いが鼻をついた。マズいと思った彼は玄関から窓まで外から開けられる場所を全て開け、救急車を呼んだそうだ。


 悪い予感は的中し、家の中で両親は倒れていた。一酸化炭素中毒という診断だった。そうして彼は両親を失った。


「うちの親は私を心配していましたから、受取人を私にした保険を結構な額かけていて、遺産と保険金は手に入ったんです。だから一応猿を見るとお金が入るというのは本当かもしれません。でも、私は誓って誰かを犠牲にしてまでお金が欲しいとは思っていませんでした。あの猿が警告をしたのか、あるいは何か超常的な力を使って両親をガス中毒にしたのか、それは分かりませんが、あの猿には二度と会いたくないので実家の建物や土地は全て売り払って上京してきたんですよ。二度と戻ろうとは思いませんよ」


 話はそれだけだそうだが、彼の考えがその一件で少し変わり、子供を大学まで出してやれるほどのお金を手に入れたが、結婚する気はすっかり失せてしまったそうだ。彼によると『結婚したりしたら、もしまたあの猿を見たらと言う考えが浮かぶのでとてもじゃないですが出来ません。あの猿が実家の周囲から離れられるのかは知りませんが、二度とあんな思いはしたくないですね』と言った。彼の考えを変えてしまった猿は、今でも彼の故郷にいるのだろうか?

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