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日本怪奇譚集  作者: にとろ


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ガチ恋営業の行く末

「ガチ恋営業って知ってますか? あれで怖い目に遭った子がいるんですよ」


 私はもう既にこの時点でこの話には期待出来ないなと思ってしまった。どの業界でもそういうのは相手が割り切っていない限り良い結末を迎えることはない。どちらか片方にとって良い結末はあるかもしれないが、誰もが幸せになるようなことはまず無い。


「知っていますが、水商売とかの話でしょうか?」


「いえ、配信者ですね、VTuberって知ってます?」


 もちろん知っているのだが、最近炎上した誰かが数人思い浮かぶ。その子の知り合いなのだろうか? ゴシップにはなっても怪談にはならないのでそう言った話は困るのだが……


「知っていますよ。怖い目に遭うというと具体的にどんな目に遭ったのですか?」


「はい、始まりは同接が急に増えた頃から始まるんですが……」


 そうして彼女の知り合いであると言うXさんの話が始まった。今回の話は大部分の名前が存在しないものだ。大抵この手の話を子細にすると炎上するので許していただきたい。


 そのXさんは所謂大手の箱、つまり事務所に所属していたわけではない個人勢と呼ばれるものだった。自分でモデルを調達し、必要なら防音室やトラッカーもなんとかする、案外お金のかかる趣味だったりもする。


 個人勢ということで初めはフェイストラッカーのみを使用してソフトで簡単にできるデフォルトアバターで活動を始めたらしい。


 初めの頃はあまり同接がいなかったのだが、半年も続けるとそれなりの人数が見てくれるようになり、承認欲求は満たすことが出来ていた。しかし彼女は活動するためにそれなりの金額を使ったので、せめてその分は元が取りたいと思っていた。つまりは収益化を見据えていたわけだ。


 収益化は一年に近くなる頃に申請が通ったのだが、その前にたくさんのリスナーに愛嬌を振りまいていた。そのため所謂ガチ恋勢が多かく、収益としては人数をたくさん集めないとならないためそれまでのファンの多くを切り捨てた。褒められたことではないのかもしれないが、普通の社会人としては多めの金額を出していたため、速めにお金が欲しかったらしい。


 そうなると当然と言えるかもしれないが、それまでのファンの一部はアンチ化したそうだ。しかしその子はしたたかに書き込み禁止ワードを大量に仕込んで言論統制をした。おかげで投げ銭だけをしてくれる『お金になる』ファンがついた。


 ただ、ある日彼女が眠い目を擦りながら配信をしていた時、コメント欄に昔アンチになった元ファンの名前が見えたような気がした。コメント欄を焦ってスクロールしてみたが、その名前は見当たらなかった。だからその日は気のせいだろうと言うことで話は終わった。


 しかし、それ以後その人の名前をそこかしこで聞くようになったらしい。ある時はレストランの待合でその人の名前が呼ばれたり、またある時は病院で診察待ちをしている時に診察室からその人の名前を挙げて医師がなだめている声が響いてきたりした。


 最終的には彼女の勤めている会社の電話にその人からのアポイントメントが入り、ふざけて付けた名前に見えなかったため彼女のところまで問い合わせが来たそうだ。そこで限界を感じた彼女は実家に帰ってのんびり過ごしているという。


「それで彼女の話は終わりなんです、ただ……よく分からないのは同名で同じモデルを使った配信者が配信を続けているんです。しかも彼女が言っていた男の名前がコメント欄にドンドン流れていくし……不気味なんですよ」


「それはその人が実家に帰ってその人と縁が切れたので配信を再開しただけでは?」


 私の当然の疑問に彼女は寂しそうに首を振る。


「それは無いんです。彼女、結構気に病んだのが悪かったのか、死んじゃいました。だから彼女が配信するわけが無いんですよ」


 たぶん自死したのだろうと思ったが、デリケートな話題は避けて、私に言えたのは『アバターが流出して誰かが勝手に使っているんじゃないでしょうか』という気休めくらいしか無い。

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