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美味しいハーブティー

 Bさんはとある日、友人のUさんにお茶会に招かれた。Bさんには子供がおり、ちょうど誘われた日は夫が休日で子供を任せることができたので行くと即答した。


 Uさんには子供がいないが、それなりに裕福で、周囲からの評判もいい人だった。最近旦那さんを亡くして塞ぎ込んでいたと聞いていたので、電話で誘われた時には落ち込んだ様子が無く、Bさんも一安心した。


「Uさんにはお世話になったこともありますし、少し高めのケーキを持ってお茶会に行きました。もちろん夫と子供には家で留守番してもらいましたし、出来るだけ二人の話題が上らないように気をつかいましたよ」


 夫を亡くしたUさんにその事を突きつけるのはあまりにも残酷なので、連絡も入らないようにスマホをサイレントモードにして、その日を待った。


「じゃあ行ってきます」


「楽しんでこいよ」


「まま……いってらっさい」


 二人に送り出されて気分良く町の中を歩いて行った。Uさんはそれなりにお金を持っているのでこの程度のお茶菓子など簡単に買えるだろうが、こういうのは気持ちの問題だ。それになにも持っていかなければBさんが気後れしてしまう。だから自分のためという事情もあり、途中で洋菓子店でお茶菓子を買って向かった。


「いらっしゃい! 待ってたわよ」


 Uさんは快く出迎えてくれた。一時塞ぎ込んでいたとは思えないほど明るい声音だった。


「招いていただきありがとうございます」


「そんなかしこまらないで、準備は出来ているからテラスに行きましょう」


 そうして二人でお茶会をすることになった。しかし何故お茶会を急に開こうとしたのかはさっぱり分からない。何にせよ彼女が立ち直ったのはいいことだと思い、詮索するわけにもいかず、そのままお茶会への流れとなった。


 テラスにはもう準備がされており、席に着くとUさんは『お茶の準備をしてきます』と言って足早にキッチンに向かった。手伝おうかとも思ったが、人の家の台所で動いても邪魔になるだけだと思い、出来るだけ気分を害さないように気をつかった。


 そうして縮こまっていると、Uさんがティーポットを持ってきて二つのカップにハーブティーを注いだ。Bさんはお茶菓子のケーキを取りだして『粗末なものではありますが』と二人分を並べた。


 Uさんは『気をつかわせたみたいで悪いわ』と言いつつ小皿とフォークを用意して二人でお茶会を始めた。それはとりとめの無い会話だったが、ハーブティーが非常に美味しく、ありがたく飲んだ。育児にとらわれない自由時間というのは貴重だなと思いながら、お茶が美味しかったのでどんなハーブを使っているのか訊ねてみた。


「あら、普通のハーブよ、ほら、この町の外れにホームセンターがあるでしょう? あそこで美味しそうなハーブの種を買って育てたのよ」


 なるほど、自家栽培かと感心した。農薬が絶対悪とは言わないけれど、やはり人が精魂込めて作ったものだから美味しいのだろうと思った。


「それにしても美味しいですね、なにかコツがあるんですか?」


 後に彼女はその質問をしたことを全力で後悔した。


「大したことはしてないわ、そうね、敢えていうなら旦那が手伝ってくれたことかしら」


 その回答に疑問が浮かんだ。ハーブを育て始めた時期と彼女が夫を亡くした時期が噛み合わない。手伝ってもらう期間など無いはずなのだが……


「旦那さんがなにをしてくれたんですか?」


「簡単よ、骨って肥料になるのよ、まだ四十九日も経っていなかったから助かったわ」


 その一言で全てを察した彼女は適当な言い訳を早口で並べ立ててその場から全力で離れた。早足に玄関に向かい、靴を履いてドアを開けたらもう走り出していた。私はなんてものを飲んでいたんだと後悔していた。


 その後、Uさんとは話もしない関係になってしまったという。そして彼女は未だにハーブティーが飲めないらしい。

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