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私だけの見た幽霊

 Mさんは以前幽霊を見たことがあるらしい。ただ、その話をしても誰も信じてもらえなかったので、私が聞きたいと言ったら二つ返事で話したいと言ってくれた。


「オカルトを信じていたわけではないんですけど、そんなもの関係無く幽霊って見えるんです」


 彼女の昔の体験を語ってくれたのだが、彼女は話を信じて貰えなかったと言っているが、実際は違うのではないかという内容だった。


「実家に帰った時に見たんですけど、子供の幽霊が出たんです」


 その話にはどこか昏いものを感じずにはいられなかった。


 成人式も終わって実家に顔を出したんです。自慢じゃないんですけど実家が結構太いんですよ。ただ、あまり立派な家ではないんですよ。もっと良い建物に住めるくらいの資金はあるはずなのにわざわざ平屋の古民家で暮らしているんです。家自体は大きいんですが、井戸の近くには寄らないように厳しく言われていました。


 何故井戸なのかは分からなかったんですが、それ以前にその井戸ってとっくに涸れているんですよ。落ちると危ないって言うのも分かるんですけど、その井戸には立派な蓋がされていて、大人数人がかりでないとピクリともしないほど重いんです。


 彼女は自宅に泊まるとなんとなく寝付けなかった。なんだか妙に泊まっている部屋の外から気配がするのだ。トイレにでも起きたのかと思ったのだが、誰かがトイレに行ったなら、帰る足音がしないとおかしい。数回トイレの方に向かう足音がしたのだが、帰る足音はしていないので、もし音の通りだとしたらトイレの中に複数人が詰まっていることになる。


 もちろんそんな状況はおかしいので、彼女は客間のふすまを少し開けた。


 そこには誰かがいた気配も無く、ただ寒い風が流れ込むばかりだった。気にせずに寝よう、そう思ったところで庭に影を見た。それは井戸のまわりに集まっており、影は一つ一つ井戸に向かって飛び込んでいった。


「何やってるの!?」


 思わず止めようとしたのだが、声も虚しく全ての影は井戸に飛び込んで消えた。


 自分の見たものが信じられず、サンダルを履いて井戸のところまで縁側から向かうと、そこには何も無かった。井戸の中に誰かが落ちたような気がしたのに、その中には誰もいない、スマホで照らしても涸れた井戸の地面が見えるばかりだった。


 狐につままれたような感覚のまま朝まで寝た。そしてその事を母親に聞くと、血相を変えて『不気味なことを言わないでちょうだい!』と怒られてしまった。確かに見たと言っても『気のせいだ』の一点張りでとりつく島もない。


 多分父親に言っても無駄だろう、あの人は母のところへ婿入りしたので事情は知らないだろう。真相はすべて闇の中だ。


「結局、確証があるわけじゃないんですけど、推測で話させていただくなら……」


 前置きをして彼女の嫌な想像を言う。


「あれは井戸に落とされた人の亡霊なんじゃ無いかと思うんです。実家がこの不景気に全くお金に困っていないのを考えると、その井戸に何かを捧げたんじゃないかと思うんですよ。ほら、井戸って神様がいるらしいじゃないですか? だからきっとあの影は生贄の影で……全部私の想像なんですけどね」


 推測を話すMさんは暗い顔をしており、もう実家に帰るつもりはないらしい。

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