テレビの怪
「テレビって今じゃ液晶や有機ELが主流じゃないですか? 昔はブラウン管が主流だったんですが……その時代にはテレビに幽霊が映ったとか話になってましたよね。液晶が主流になってからオカルト番組は減りましたが、話はその過渡期の話です」
H子さんは小学生の頃に幽霊を見たそうだ。
「小学生に人気の番組があったんですよ。だから私も授業が終わったら即家に帰って番組を見ようとしていたんですよ。一応録画も出来たんですがね、当時は録画がビデオデッキの時間頼りだったので録画ミスも普通にあったんです」
だから彼女はクラスメイトと話を合わせるためにも、大急ぎで家に帰ったそうだ。家に着くと靴を乱暴に脱ぎ散らかしてテレビの前に座った。リモコンを押すとふぁーんという音と共にテレビがついた。毎週やっているアイドル番組を熱心に見て、楽しんだのだが、当時はテレビがメディアの最上位にいたのでテレビを見られないと話題についていけなかった。話題から弾かれないためにも見ておく必要があったのだ。彼女曰く『スマホで話題の動画が自由に見られるとか良い時代ですよね』だそうだ。
そして番組が終わると次にニュースが流れてきた。退屈だったのですぐに彼女は寝てしまった。次に目が覚めたのは夕食の時間になる。
「起きなさい、ご飯よ」
その言葉でようやく目が覚めた彼女は小綺麗な部屋で意識を取り戻した。真新しい部屋、綺麗な壁紙、フローリングの床……はて、寝た時は畳の上でブラウン管から流れてくる映像を見ながら寝たはずだが……
そこで気がついた。記憶にある部屋は引っ越す前の部屋だ。引っ越しに従ってテレビは液晶になり、親はタバコを止めたので壁紙が黄ばむことはなくなって、和室から洋室に代わったはずだ。では私は一体どこにいたのか? 引っ越す前の部屋は引っ越す時に鍵を返してさらに今では鍵も交換されているだろう。では一体何を見たのだろう? 私は寝たまま前に住んでいた部屋からここまで移動したのだろうか? そもそもは入れたのもおかしいし、なんで家電がそろっていたのかも分からない。ただ、夢で片付けられないのは流れていた番組が今日の生放送で、内容までしっかり覚えていた。
翌日、友人の間でその番組が話題に上ったが、彼女の記憶していたとおりの兄用だった。だから昔の思い出を夢で見たわけでもないはずだ。
「あれは何だったんでしょうか? 幽霊の出る部屋は知っていますが、部屋の幽霊なんて聞いたことが無いですね。なんとなくですが……引っ越す時に処分したブラウン管のテレビがあれを見せたんじゃ無いかって思ってます、何の根拠も無いんですがね」
未だにあの時のことは分かっていないそうだが、記憶違いでは決して無いと言うことだけは断言していた。
私は付喪神という言葉が思い浮かび、それにしては出てくるものが深い歴史があるわけでも無いんだなと思えてしまう。実は付喪神になるのに歴史など関係無いのだろう、多分……