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末代まで

「末代まで祟ってやるって言葉が有るじゃないですか、あれって末代まで自分の恨みを引きずる暇人の言葉だと思うんですよ」


 Wさんは初手からそんな言葉を吐いた。どうやら呪いというものを信じているらしいと言うので話を伺うことになったのだが、どうやら私の考えていた話とは随分違うことになりそうだ。


「暇人ですか、それだけ恨みが深いという話だと思うんですが……」


 私の言葉に彼女はくすりと笑って言う。


「末代まで呪いに大人しくかかってくれる無能ばかりだという前提で祟る方が悪いんですよ。私みたいなのが居るとそれだけで破綻しますから」


 話は彼女の曾祖母まで遡るようだ。


 戦時中、彼女の曾祖母は都会から来た人にいろいろなものを要求して僅かばかりの農作物を渡していたそうだ。当時は農家の力が強く、そんなぼったくりが成り立っていたらしい。


 しかし戦時中だ、ものをロクに持たず田舎に越してきた人もいた。その家族は本家のある田舎まで東京から逃げてきたそうだ。しかし等の本家は財産の接収などでその家族の面倒を見る余裕など無い。そこで曾祖母はかなりふっかけて取り引きをしたらしい。その中には由緒正しい先祖からの遺産なども入っていたらしいが、戦時中に芸術品の価値などロクに無い。いくら綺麗な陶磁器や立派な水墨画だってそれを食べることは出来ない、だから大量の価値ある品を巻き上げたそうだ。


「結局、その家族は戦後まで生き残ったそうですが、無一文に近かったそうですよ。東京に居たら大空襲に遭っていたでしょうからどちらが良いかは知りませんが、それで曾祖母は随分と恨まれて、その家族が出て行く時に散々呪詛の言葉をかけられたそうです」


 仕方ないことなのかもしれないが、暴利をふっかけられてもそれに従うしか生き残る方法が無かったのだから恨むのもお門違いのような気もするが、とにかく彼女は曾祖母の代からそれなりの素封家になったらしい。


「そこまでは美味しい話にありつけたらしいんですけどね、曾祖母の晩年はなんとも言えないものでした。当時はボケたと呼ぶ状態になり、腫瘍が見つかって酷く苦しみながら死んじゃったそうです。それからは祖母も子供は出来たんですが自分が出産の時に死んじゃったそうです。そこで生まれたのが私の母なんです。曾祖母のことを知っているのは母より前の世代だそうですが、母は『この家にいるとロクな死に方をしない』なんて口を酸っぱくして言っていたんです」


 それから少しして、母が病に伏せったそうだ。


「分かりやすい呪いでしたね、母のまわりにぼんやりと黒い影が見えるんですよ。どうも子々孫々まで呪うために子供が出来てから呪うことにしていたようですよ。まあその家族も気の毒ですよね、私がオカルトにハマらなければ良かったのに。ま、それを言ったら初めから呪うのはやめておいた方が良いって思いますけどね」


 軽くそう言い、彼女は手元に置いていた手帳から栞のようなものを取り出した。それは真っ黒に焦げており、中心部には梵字のようなものが刻んであった。


「連中のやった呪いって言うのは生き霊を飛ばしてくるタイプみたいですよ。だからきっと母の周囲に居たのはその家族の末裔なんでしょう。おかげで随分とやりやすかったです。この依り代に呪うために飛んできた生き霊を閉じ込めて……レンジに放り込んで十分くらい焼いてあげました。生き霊なんて飛ばすものだからこうしてやり替えされると自分に返って来ちゃうんですよね。レンジで黒焦げにした翌日に町の隅の方でストーブの事故で家が一軒焼けたそうです。あばら屋だったそうなので燃え広がる前に燃え尽きたらしいです」


 彼女は自分がそれをやったと言っているのに涼しい顔をしている。私は少し寒いものが走ったような気がした。


「恨むなとまでは言いませんが、恨むにしたってもう少し考えてれば誰も死なずに済んだってのに、ご丁寧に末代まで呪おうなんて不相応なことを考えるからこうなるんですよ。曾祖母までで満足していれば私みたいな対抗する人は居なかったって言うのにね」


 そう言ってから、『聞いてくれてありがとうございます』と笑いながら言って彼女は去った。私は後日、彼女の故郷の新聞を調べてみたが、確かに一軒の不審火があった。人を呪わば穴二つとは言うが、その事件によると穴は四つ必要だったようだ。そして彼女は言葉の通り、きちんと未来に禍根を残さない形で解決していた。相手を恨むのは簡単だが、それをずっと恨み続けることもリスクなのだなと思わされる話であった。


 そして、世の中敵に回さない方が良い人は居るなと思う。

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