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猪狩りの怪

 田上さんの祖父は昔、猟友会に入っていたそうだ。害獣を狩るのを悪いことだとは思わないし、人のためにやっているのだから誹られる謂れは無いのだが、やはり動物側にとってはそうでもないようだ。


「昔は祖父と祖母が家に居たんですが、祖父はイノシシを狩るのが得意だったんです。罠を仕掛ける免許も、猟銃の許可も取っていましたよ。その頃は時々猪のお肉が出ていました。当時はよく分かっていなかったんですが、少し年が上がると普通の家庭では猪の肉が食卓に並ぶのは珍しいって知ったんです」


 彼女の祖父は主に猪を狩っていたという。田舎では案外身近な獣で、少し山の側にあるところには猪が地面を掘ったあとがあるのは珍しいことではないそうだ。


「祖父が狩ってきた動物のお肉が出たんですけど、ある日何か見たことのないお肉が出たんですよ。猪かと思ったんですが、とても脂が差していてとても野生の動物のものには見えませんでした」


 野生のものなら脂がのるほど餌を食べていないはずだ。彼女が言うには『祖父は猪の肉だと言っていた』そうだ。結局、真相は不明だが、何の肉だったのかは分からないまま鉄板の上に載せられ豪快に焼かれたそうだ。


「でね、なんか祖父がやたらみんなに食べさせようとするんです。両親は野生の猪肉に抵抗があったそうなんですが、祖父には珍しく『食べろ』という圧を感じたそうです」


 渋々ながらみんな納得してその肉を食べた。祖父も食べていたのだから毒が入っているわけではないのだろう。だから抵抗があっても渋々食べていった。田上さんはおじいさんに『ほら、たくさん食べないと大きくなれないぞ』と言われ、次から次へと焼き肉の取り皿に肉を入れられたそうだ。


「それだけの話なんですが……関係あるのかは分かりませんよ? ただ、その晩変な夢を見たんです。その夢の中では私の前に真っ白な猪が居たんです。その猪は『お前か?』と人の声を話したんです。それが何の事なのかは分かりませんが、なんだか怖かったので必死に首を振って否定したんです。そうしなければならない気がしたんです」


 翌朝、朝食時に両親にその話をすると、二人とも同じ夢を見ていたそうだ。寒気がしたそうだが二人ともその問いを否定して目を覚ましたらしい。その日、祖父はなかなか起きてこなかった。年を取ると朝が早くなると言うが、その日は昼まで起きてこず、しびれを切らした父親が部屋に呼びにいくと祖父は事切れていたらしい。祖父がどんな状態だったかは何故か彼女に決して話されなかった。その事から、普通に布団の中で死んだのではないのだろうと予想が付いた。


「結局、あの夢との関係はなんなのか分からないんですが、ただ、きっとあの肉はあの白い猪の肉だったんじゃないかと思っています。祖父は神獣か何かを狩ってしまったのではないでしょうか。だからその呪いがかかったのではないかと思っています。ただ……そうなるともしかして祖父は私たちにも呪いを被ってもらおうとしたんじゃないかと思うんです。だから私はその猪より祖父の方が怖いんじゃないかと思っています」


 孫に呪いをかけようとした祖父、結局亡くなってしまったのだが、彼女は人間が一番怖いのではないかと未だに思っているらしい。

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