夏の終わりの人魂
Kさんが小学校最後の夏休みの話だ。彼が話してくれたところによると、その時に幽霊を見たらしい。しかし全く怖くはなかったという。その思い出を聞いた。
「人魂ってあるじゃないですか? 俺はそれを見たことがあるんですよ」
それは今よりかなり前の話、彼が小学生で、お盆には毎年お墓参りをしていた頃の話だ。
そのお盆は両親が帰省をして一通りのお盆らしい事はやった。前年、彼の祖父が亡くなっていたのだが、まだ彼には実感がなかったそうだ。そして最終日に墓参りをすることになったのだが、お墓参りの時にはもう夕暮れになっていた。
父親は実家で酒を飲んで寝てしまい、母親はその介抱をしていて、祖母は墓まで歩いて行くには体力が無かった。そんなわけで『いつも通りでええから行ってきて』と言われ、線香をもって一人墓参りをすることになった。
今思えば子供に多目的ライターを持たせて線香を祀ってこいというのも物騒な話だが、当時のライターにはチャイルドロックなどついておらず、ボタンを押せば火が付くタイプだったので彼が使うのにも支障は無かった。
そうして墓までの道を歩いて行くと夕焼けが地面に伸びて、その中を歩いて行くのはなんだか不思議な気分だった。そうしてしばらく道路を歩くと、共同墓地に着いた。あとは線香をお供えするだけだと思い、線香を撮りだし、それに直接ライターで火を付けた。ろうそくを使うべきなのだろうが、当時いつも家族がそのやり方をしていたので、彼にとってはいつものやり方というのがそれだった。
そして線香に火が付くと、自分の家の墓に一通り供えていった。最後に祖父の墓に残った線香を全部お供えしたのだが、その時に予想外のことが起きた。線香から青白い炎が上がったのだ。
線香に火が付く場面など小学校の理科の実験で酸素に入れた時くらいしか知らないので彼は混乱した。しかも赤ではなく青白い炎だ。コンロから出るような色の炎をポカンとしたまま見ていると、それは彼の顔の前で止まる。炎の中に祖父の顔を見た気がした。
「おじいちゃん……?」
彼は思わずそう言うと、人魂はニヤリとして墓の中に吸いこまれていった。そしてその後には五百円玉が一枚置いてあった。
彼は言う。
「あの人は俺が実家に帰る度にお小遣いをくれてましたから、死んでまでその習慣が残ってたんですかね? その後百円は使わずに今でもっていますよ、一応遺品みたいなものだと思ってますからね」
Kさんは少し寂しそうに言った。最近彼の祖母も鬼籍に入ったが、いまでもお盆のお墓参りは欠かさないそうだ。そして今でもろうそくから線香に火を付けず、直接ライターで付けているらしい。彼は『未だにあの時と同じ事が起きて欲しいのかもしれませんね』と寂しそうに言っていた。