往年のCD
最近ではCDというメディアが再生出来ない器機も増えてきたが、どうやら心霊的なものは一歩遅れてから技術を追ってきているようだ。
かつて、カメラがフィルムからデジカメに代わった時にしばしアナログばかりで心霊写真が撮られていたが、次第にデジカメにも心霊写真が写るということになった。どうやらそれはカセットテープから置き換わったCDにも当てはまるらしい。
これはAさんの話だ。
「CDって一度プレスされたら物理的にどうやっても内容が変わらないはずじゃないですか? 何故か内容が変わったことがあるんですよね」
彼女が高校生の頃、カセットテープは駆逐されつつあり、今でこそレトロな品として再評価されているが、当時は一気にデジタルに置き換わった頃だ。
「CDプレイヤーでその頃はやっていた曲を買っていたんですよ。当時はサブスクなんて存在しませんでしたから、物理的なものを買い漁っていたんですよ」
そんな時、中古のCDショップでシュリンクされたCDを一枚買った。安かったので購入したのだが、帰ってビニールを開封するとAさんは落胆した。中に入っていたのはCDRであり、売った人があらかじめ中身を抜いて代わりにCDRを入れたのだろう。がっかりしてCDRを見ると、裏の記録面に模様が刻まれていた。
「何か書き込んである」
彼女の部屋にPCは無かったので、それをCDプレイヤーにかけてみることにした。すると購入したアルバムの曲がそのまま入っていた。決して褒められた行為ではないが、どうやら元々のオリジナルをコピーして、コピーの方を売ったようだ。コピーするくらいならコピーの方を持っておいて、正規品を売ればいいのにとあきれたものの、一応聞けるCDが手に入ったことは不幸中の幸いだった。
それをしばらく聞いてから、CDをケースに保管して時々聞いていた。しかし時代はMDになり、CDはMDに録音して聞くのはMDと言うのが当時は流行っていた。
彼女も、もっているCDを大量にMDに記録していった。大きさがまるで違うのでポータブルMDプレイヤーが流行っていた時代だ。当時はオーディオプレイヤーに記録チップやHDDを積むなど考えられない時代だったので、彼女ももちろんプレイヤーを持っていた。
一通りのCDコレクションをMDに移し替え、ラベルに曲名を書いていった。そしてMDコンポで適当に再生しながら勉強をしていた。
一枚が終わる度にMDを交換していたのだが、たまたま手に取ったのがあのCDRをコピーしたものだった。まともに聞けたのだからMDに記録しても問題無いだろう、そう考えてプレイヤーに突っ込んだ。
「ウぐぉぉぉぉ……タス……ケテ……タ……テ」
そんな地獄の底から響くような声がプレイヤーから響いてきた。彼女は驚いてMDを取り出すと、何故か曲名を書いていたはずのラベルが真っ黒になっていた。
困惑したものの、大元のCDがどうなっているのか確かめようと、そのアーティストのCDを棚から出すと、取り出す時にパラパラと粉が散った。ケースを開けるとふぁさっと銀色の粉が飛び散り、中身のCDは記録していた面のコーティングが綺麗に剥がれて透き通った円盤になっていた。ゾッとしてゴミ箱にそれとMDを捨ててさっさとゴミに出した。それきりおかしな事はないそうだが、それ以来彼女はCDを買う時は必ず新品を選ぶようにしたという。
なお、今では真っ先にサブスクに入り、煩わしい心配から解き放たれて好きな曲を聴いているという。私としては幽霊が音楽配信技術に追いつかないよう切に願うばかりだ。