僕の悪い癖
Rさんには悪癖があった。心霊スポットの話を聞くや、そういったオカルトが好きな友人と一緒に出向いていって根掘り葉掘り幽霊を探して場を荒らしてしまうのだ。もちろん不法侵入なのだが、多くの人が出入りしている場所など一々全部に対応出来ないため、そこを管理している人には頭の痛い問題だったろう。
そんな彼だが、突然にその心霊スポット荒らしを止めた。怪談好きの間でも『アイツには黙っておこう』という暗黙の了解が出来るほどのヤツが、突然止めたので彼の知り合いであるBさんが『威勢のいいことを言ってた割には大人しいじゃん、流石に就活も近くなるとそんな暇なことも出来ねーのか?』というと、落ちくぼんだ目をしてRさんは最後に寄った心霊スポットでの話を始めた。
その心霊スポットは、昔の有名人が心中をしようとして自分だけ助かったという曰く付きの場所だった。そんなものを恐れる彼とその仲間ではないので当然みんなでその場で肝試しでもしようと一人の車に乗って出向いた。
一応観光地なので駐車場こそ有料だったが、きちんと整備されておりその場所まで向かうのになにも不自由は無かった。
何の障害もなく現場に着いてしまったので、仲間たちは口々に『つまんね』『怖くないじゃん』『この際動物でも良いから化けて出ねーかな』などなど、口々に好き放題言いながらその周辺をLEDライトで照らしていった。
もちろんそんなに簡単に幽霊が見つかるはずもなく、わざわざミラーレス一眼カメラまで持ってきて写真を撮っていたヤツが大いに失望していた。
そうして歴史的な事実はさておき、そんな曰くがある場所でも幽霊は出てこないとがっかりして、みんなで帰途についた。その日は特に何事もなく終わったのだが、問題はその翌日から続いた。
あの時は十人くらいで出向いたのだが、その連中の家族や恋人に不幸があったと言う。現場に行った本人たちはなんともなかったのに、その家族や親しい間柄の人に一人ずつ災難が襲いかかっていった。初めの数人なら偶然だろうと片付けたかもしれないが、それは一向におさまることは無く、七人目の祖父が脳出血でこの世を去った。
現場に行った連中はパニックになり、そこへ花と線香を供えて土下座して詫びたそうだが八人目の犠牲者が出たところでRを中心としたグループはバラバラになり、お互いもう二度と関わらないようにしたそうだ。
「だから俺には関わるな、ロクなことにならないぞ」
そう言って去るRの背中は酷く小さく見えた。幽霊なんて心底バカにしているようなヤツだったのが、今ではすっかり何かに取り憑かれたようになっていた。
それからしばらく調べたBさんは、結局Rには災難が襲いかからなかったと言う。Rは親しかった人間との関わりを全て断ち、大学も辞めて世捨て人のような暮らしをするようになったので、彼にはもう親しい関係の人がいないそうだ。