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拾った財布

 ある日、Zさんは散歩中に財布を拾った。その中に連絡先でも入っていないかと申し訳ないと思いつつも財布を開けてみた。中には端の焦げたお札数枚と写真が入っていた。何故か白黒だったその写真には幸せそうな家族が写っていた。ただ、その写真は白黒なのに、写っている風景は何故か現代的なものだったのが気になった。


 とはいえ、これだけヒントがあれば警察に届ければすぐに持ち主が見つかるだろうと思い、交番に拾得物として提出した。一通り、どこで拾ったかなどを聞かれて全て回答し、交番をあとにした。


 心配はしていないし、その財布には身分証の類いは入っておらず、お金とあの写真のみで、落とし主もそれほど困っていないだろうと思っていた。


 しかしその拾った財布は持ち主が現れず、何故かZさんが交番に呼ばれた。そろそろ半年になるし、持って帰るか聞かれるかくらいに思って交番に行くと、苦虫をかみつぶしたような警官が数人立っていた。


「あ、すいません、財布を拾ったものですが……」


 そう言うと一人がZさんに、財布を拾った場所や経緯を事細かに聞いてきた。何か事件絡みだったかと不安になったところで説明をしてくれた。


「この財布なんですが、本当に最近拾ったものなんですよね?」


 なんだか奥歯にものが挟まったような言い方だが、『ええ、半年前でしたっけ?』と答えると、その場の全員がため息をついて答えた。


「その財布なんですが、持ち主は分かりました」


「そうですか、それは良かった。しかし何故今日呼ばれたのですか? 見つかったならそれでいいのでは?」


 そう言うと重苦しい空気になって、警察官がビニール袋に入ったお札を取り出してきた。


「これを見ておかしいと思わなかったのですか?」


 袋に入ったお札をよく見る。それは聖徳太子のお札であり、もう見なくなって久しいものだ。何故おかしいと思わなかったのだろう? 拾って中を改め、ここに来て引き渡して帰ったのだが、それまで一度も旧札が入っていることを疑問に思わなかった。


「この財布の持ち主ですが、もうかなり前に亡くなっています。申し訳ありませんが財布とその中身は証拠品として警察で預からせていただきます」


 そんなことを言われ、混乱しているところへ、財布を受け取った警察官の人も困惑した顔で言う。


「引き取った私が言うのもおかしいのですが、あの時は旧札が入っていることをおかしいと思わなかったんです。横暴と思われるかもしれませんが言わせていただくと、これはあなたが持っていても良いことのあるものではないと思いますよ」


 そういえばこの人も財布の中身を改めるのに疑問を持っていなかったな。二人が二人ともおかしな財布をおかしいと思わなかったわけだ。それはなんとも不思議な話だった。


「この財布なんですが、詳しいことは言えませんが事件に関わっている可能性があるため警察で調べさせていただきます。ご理解ください」


 ご理解もなにも、そんな不気味な財布など持ちたくなかったZさんは言われるままに財布を預けて逃げるように帰った。


 あの財布がどんな事件に関係あるのかと訊ねたのだが『あんな不気味なものを調べる気にもならなかった』と言うことで、今でもあの財布の正体は謎のままだそうだ。

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