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日本怪奇譚集  作者: にとろ


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先輩の遺産

 根岸さんは大学生の頃、住んでいた学生寮で先輩に助けられたことがあると言う。まだスマホが普及したりしていない、連絡と言えば掲示板に記載されていた時代の話だそうだ。 


 彼はよくいる不良学生のように、大学生になり一人暮らしをするようになり、大方の学生と同じく遊びほうけていたそうだ。彼は留年を恐れず、平気でギャンブルやタバコに入れ込んでいた。


 住んでいるボロい学生寮はそのうち建て替えるという声もあったが、建て替えの具体的な話は出ていなかった。


 そうしてよく居る素行の悪い学生らしく、単位を落としそうになっていた。彼は留年すればいいやくらいに思っていたが、『学ぶ気が無いなら学費は出さない』と親に厳しく言われてしまった。


 バイトで遊ぶ金は稼げるが、大学の学費を賄えるほどのバイトを入れることは出来ない。そこに至って、ようやく彼はきちんと講義に出て真面目に学び始めた。


 しかし習慣づけられていないことを始めたので、少しだけ講義の内容が理解出来てきた頃にはもう既に試験が近くなっていた。


 彼は焦り、必死になって過去問をもらおうとしたのだが、なにしろ彼の知り合いにはやる気の無い学生が集まっていたため、誰も過去問を盛っているようなことはなく、まあなんとかなるだろうと呑気な感覚を持っているヤツばかりだった。


 そこで焦って勉強を始めたのだが、数ヶ月分の遅れを取り戻すのは不可能に近い、そろそろ試験が近くなってきたところで彼は夢を見た。


 その夢の中で、彼は据え付けられていたクローゼットを指さす男が部屋に立っていたのを見た。夢だとは分かっているのだが、何故かその男は厳しい顔をしていた。


 そこで目が覚めてクローゼットを開けて中を漁ると、講義をしている教授の過去問を書いたノートが出てきた。まともな方法ではもう追いつけない状態だった彼は、その過去問の書かれたノートを丸暗記して試験に挑んだ。


 結果、無事単位を取ることはできたのだが、休暇に入る前にまた夢を見た。


 そこでは部屋にクローゼットを指さしていた男が立っており、『次は無いからな』と低い声でハッキリと言われた。


 ただの思い込みか心霊現象か、そんなことはどうでもよく、彼はそれ以降真面目に講義に出席して単位をきちんと取って、無事卒業することになった。あの時必修の講義の過去問を見せてくれた男が誰なのかは分からなかったが、とにかく無事卒業し、それなりの内定ももらった。そうしていざその寮を出ると言うことになった日のことだ。


「おう、あの部屋なんかいろいろあったらしいがお前何も無かったん? やっぱただの噂なんだな」


 寮に住んでいる知人がそう言ったので、話を聞くと、その部屋に入ったヤツは割とすぐに部屋を変えるか出て行くかしていたそうだ。その部屋は『出る部屋』として一部で知られていたらしいが、住んでいるヤツの迷惑になるということで話さなかったそうだ。


 もう出ていくんだからいいだろうと言う知人に彼は『悪いヤツじゃ無かったよ』と言ってやりたかったが、そんなオカルトじみたことを信じる相手でもないので黙っておいた。


 そして彼は今では立派な社会人をしているそうだ。

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