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日本怪奇譚集  作者: にとろ


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早起きの理由

 琴吹さんは祖父から怖い話を聞いたことがあるそうだ。本人からは『あまり人に言うもんじゃない』と言われていた内容だが、祖父が鬼籍に入ったということで話しておきたいということで聞かせていただいた。


「別にそれが良いとか悪いとか言う話じゃないんですけど、今って家で食用の動物を飼っているところって少ないじゃないですか、昔は結構普通だったと祖父は言っていました」


 そんな彼女のおじいさんは、毎朝自宅で買っていた鶏に餌をあたえ、時にそれを〆て食卓に並ぶに苦にしたこともあるらしい。当時はまだ店で買うには高級品だった肉を何とか安く食べたいという工夫の一つだったらしい。


 そんな彼女の祖父だが、働き者であり、毎朝誰よりも早く起きて畑に向かっていたそうだ。彼女にとっては優しいおじいさんだったということだが、父も母も時折厳しいことを言われていたらしい。


 それでも普通に暮らしていたのだが、時々出てくる鶏肉を彼女に振る舞い、その肉を美味しいと思いながら食べていたそうだ。


 そんなある日、ふと疑問に思い祖父に聞いてみたそうだ。


「どうしておじいちゃんは目覚まし時計もないのに早く起きてるの?」


 気軽に聞いたのだが、祖父は渋い顔になって、あまり人に言うなよと念押ししてからその理由を話してくれた。


「朝にな、鶏の鳴き声がするんだよ。その鳴き声で朝が来たって分かるんだ」


 しかし彼女は納得しなかった、今まで鶏の声で目が覚めたことなどない。もう既に少し耳が遠くなっている祖父が起きるほどの音量なら自分にも聞こえているはずだ、それなのに両親よりも自分よりも早くに祖父は目を覚ましている。


「そんな声しないよ?」


 彼女はそう言うと祖父は少しうつむいていった。


「ワシが鶏を絞めているからな。お前や息子たちにはやらせてないだろう? ワシがそういうことをしているから鶏も化けて出てるんだと思ってるよ」


 悲しそうにそう言う祖父になんと言っていいか分からずにいると、祖父は優しい顔になって琴吹さんに言ったそうだ。


「肉は美味しいだろう? 動物のものだって食べられるからな、誰かが責任を持って命を刈って食べられるようにしているんだ。お前にそんなことはして欲しくないが、誰かがやらにゃ鳴らんことだと言うことは覚えておいてくれ。生きるために食べるのだから、責任を持ってワシもやっておる」


 そう言って祖父はその晩寝た。祖父が話してくれてから相当後になって、食肉は店頭で買うのが当たり前になったが、未だに彼女は祖父がいったことを忘れず、誰かが自分の代わりに命を食べられるようにしてくれていることに感謝しているそうだ。


 そして、祖父の葬儀の日、その朝一度だけ彼女はとても大きな鶏の声で目が覚めたそうだ。その頃にはとっくに鶏を飼うことはやめていたので、どこからその声が聞こえてきたのかは最後まで謎だった。

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