表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
日本怪奇譚集  作者: にとろ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

147/331

夜の散歩

 Hさんは夜に散歩をしている。本当なら昼間の方がいいのだが、あいにく会社から帰ってこられる頃にはすっかり日没を過ぎているので、軽い運動も兼ねて夜に散歩をするのが習慣になった。


「今時はどこでも電灯が整備されてますし、家から漏れる明かりもあれば皓々と光るコンビニもあるので散歩事態は怖くないんだよ」


 かなり空が暗くなっているとはいえ、夜中に散歩をすることに抵抗はなかったそうだ。しかしある時おかしな体験をしたことがあるそうだ。


 あの日もくだらない案件を終わらせた後だったかな……やっと帰れたから軽くその辺を歩いてたんだ。


 明るい道だし犯罪の心配も無いだろうと気楽に町をぶらついていたそうだ。


 あの時は呑気に歩いてたんだがな、気がついたら神社の境内にいたんだよ。なんでそんなところにいるのかとか、そもそもこの辺に神社なんてあったかとか色々おかしく思えたんだがな、引き寄せられるように参拝したんだな。で、賽銭箱が目の前にあってな、俺もなんであの時あんなことをしたのか分からないんだが財布を出して賽銭箱に一万円札を入れたんだ。


 いや、いつもなら絶対そんなことはしない。なんなら賽銭に五百円入れるのだって躊躇うんだぜ? それがどうしてあの時一万も入れたのか分からないんだよ。で、気がついたら病院のベッドで寝てたよ。


 私は思わず『話が飛んでいませんか?』と訊ねてしまった。神社の話だったはずなのにいきなり病院に話が飛んだのに面食らったからだ。


「いや、どうも道ばたで倒れてたのを見つけられて救急車を呼ばれたらしいんだ。疲れが祟ったんだと医者は言ってたな、かなり無理のあるスケジュールをこなしてたし無理もないんだが見つかったのが道ばたなんだよな、どう考えても神社から出た記憶がないんだがな」


 そして医師から『結構危ない状態でしたよ』と言われ、点滴をして数日間の療養の末帰宅した。彼は帰るなり退職届を書いて退職をしたそうだ。あんな仕事を延々とやっていたら命がいくつあっても足りないと思ったらしい。


「それだけの話なんだが、一つ解決していないことがあってな」


 そう言って未だによく分かっていないことを離してくれた。


「病院で持ち物を返されたんだが、その中から一万円札が一枚だけ消えてたんだ。普通誰かががめたなら全部持ってくだろ? 万札は数枚入ってたのに一枚だけ減ってるんだよ。だから俺の命はあの神社の神様が助けてくれたんだと思ってるよ。ま、自分の命が一万かと思うと安い気もするがな、それからは財布に必ず万札を一枚は入れることにしてるんだ。保険みたいなもんだよ」


 大笑いをするHさんにかける言葉は思いつかなかったが、とにかく彼は、今では残業がそれほど無い企業に勤めているらしい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ