表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
142/293

お風呂が怖い

 Fさんはお風呂が怖いのだそうだ。正確に言えば湯船が怖いのであって、シャワーを浴びるだけなら平気らしい。その理由があるので聞いて欲しいそうだ。


「俺もね、仕事終わりにたっぷり湯をはった湯船に浸かるのが好きだったんだよ。体を流して湯船に浸かると疲れが溶けるようだったな」


 とある事があって以来、彼はシャワーだけで体を洗っているらしい。おかげで疲れると湿布で誤魔化しているそうだ。


「どうもね、昔は平気だったんだがなあ……あんなことがあっちゃな、どうにも無理になっちまった」


「何があったんですか? 水場は幽霊が出やすいとかは聞きますが……」


「あ、幽霊? ああ、あれもそんなものなのかね、迷惑な幽霊が出たもんだ」


 ある日、彼が現場仕事で疲れ切って帰ってきた時、アパートの湯船に湯をはった。彼はその頃は湯船に浸かるのが好きだったので、ボタン一つで湯船に湯を張れる便利な物件を選んだらしい。


 その物件は事故物件などではなく、普通に安かったそうだ。彼も相場より安いのはなんでだと聞いたそうだが不動産会社は人が居着かないから安くしている、今まで何か事故や事件が起きた履歴は無いとハッキリ念を押してくれた。


 それならばとFさんもその物件に決めた。入居してからしばらくは何も起きなかったが、住み始めて一月が経ったくらいの頃からおかしな事が起き始めた。


 まずは湯船の湯が冷めている、きちんと自動で温度調整までしてくれるはずの浴槽で何故か温く冷めてしまった湯に浸かる羽目になったことは何度もあった。しかしそうでない日もよくあったし、何よりその便利さで家賃は破格だったので多少の不便は我慢することにした。


 それから少しで今度はトイレが詰まることがよくあった。一応築浅なのでそんなに突然劣化が始まることも無いはずなのだがラバーカップの出番になったことも何度かあるそうだ。


 致命的だったのは湯船を見たときに大量の髪の毛が浮いていたときだ。手に取るとごく普通の髪の毛なのだが、大人のロングヘアを丸刈りにしたほどの量が湯船に揺蕩っていたのはたまらない。しかたなく水をこしてその日のお風呂は我慢した。


「堪らなかったのがさ、湯船に湯が綺麗にはってあったときなんだよ。蓋を開けると何故か湯に波が立っててな、その模様が明らかに女の顔なんだよ、ほら、砂漠で幽霊と戦う映画があったろ? あの砂の塊が顔になっているヤツの水バージョンだとでも思ってくれ。俺もあれには肝を潰してな、それで物件とはおさらばだよ。それだけで済んだらよかったんだけどな……」


 彼はその物件にいた何かに気に入られてしまったのか、その後どこに住んでも同じような怪現象が起きるようになったらしい。お祓いや盛り塩なども試したがさっぱり効果は無かった。結局、大好きなお風呂を我慢するという高いツケを支払うことになったらしい。


「別にあの物件に何かあったなんで思っちゃいないがな、関わらない方がいいものってのが世の中にはあるって分かったよ。それと、安すぎるものに安易に飛びつくのも考えもんだな」


 結局、それからも解決はしていないものの、妥協して、そこそこ高級な布団を買ったそうだ。一応のところはやめに寝れば疲れは持ち越さないらしい。最後に何か対処法がないかと聞かれたのだが、彼が通り一遍の対策を講じて無駄だったそうなので役に立てることは何も無かった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ